絶品の「うなぎの蒲焼き」は、なぜ美味いのか?知られざる職人技の全容を公開
私がお仕事としてお手伝いさせていただいている鰻(うなぎ)屋さんに、「入谷鬼子母神門前のだや」(東京都台東区下谷2丁目3-1
03-3872-0517 )があります。こちらのお店から鰻についていろいろとお勉強させていただくことも多く、この5年間で自分の蒲焼に対する見方が変わってきました。
今回はのだやオーナーで野田屋東庖会(鰻職人の会)当主でもある江部惠一氏にご協力いただき「うまい鰻が焦げていない3つの理由」をご紹介したいと思います。味覚は嗜好でもありますので、香ばしく焦げた鰻が好きな方もいらっしゃるとは思いますが、「職人の技術やこだわり」という観点から読んでいただければ幸いです。
1つめ:プロの捌き
切れ味鋭い庖丁で、血糊も付けずに美しく割けた活鰻は、次の工程の素焼きでも白く仕上がります。しかし、切れ味鈍い庖丁で血糊ベッタリに破いた(割くのではなく)活鰻は、素焼きでは黒くなって、蒲焼にすると焦げの多い状態になり、白焼きにすると“黒焼き”になってしまいます。
血糊ベッタリに破いた鰻の身質の表面は凹凸で、余計な血糊が染み込んでいますので、本焼きしても、強い焦げが付着して決して飴色には仕上がりません。一方、切れ味鋭い庖丁で、血糊も付けずに美しく割けた活鰻の表面には、艶のような光沢さえ生まれて、表面もフラットですので、本焼きすると余計なタレが付着せずに美しい飴色に仕上がるのです。
料理には共通点が多いですが、切れ味鋭い刺身庖丁で切り出したお刺身が、艶のある光沢を放っているのと似ています。色の悪い刺身には、鮮度のほかに庖丁使いもかかわっているのです。さらに鰻の中骨は三角骨で生肝も隠れていて、生肝を避ける庖丁捌きは、繊細さを要求されるので、まずは砥石で庖丁を剃刀のように研ぎ上げる訓練と、美しく捌くための訓練が必要となります。
2つめ:プロの串打ち
綺麗に割いた活鰻でも、生肝の入っていた腹身の部分は凹んでいますので、その部分を持ち上げるようにして竹串を挿入していきます。鰻の大きさにもよりますが、のだやでは、大きさに応じて4本から9本の竹串を挿入して蒲焼を支えるようにしています。関西風の金串と違って、竹串は挿入する時に摩擦が結構ありますので、支える指の力も要求され、(串ダコのある)強靭な皮膚でなければなりません。そして、わずか1cm以下の肉厚の真ん中を“編む”ように竹串を進めるのですから(この技によって、柔らかく蒸しても壊れなくなります)、正しく熟練の技が必要とされます。
そして、竹串を適宜な本数挿入後に形を整えますが、上から見ると綺麗な長方形に仕上がり、断面を見ると1cm以下の薄さが、技術に支えられた串打ちによって肉厚になっており、その表面は光沢を放ちつつ限りなくフラットな状態になります。その結果、本焼き時でも表面がフラットなので、必要以上のタレが付着することもなく、光沢のある“ふっくら”した飴色の蒲焼が完成するのです。