絶品の「うなぎの蒲焼き」は、なぜ美味いのか?知られざる職人技の全容を公開
3つめ:プロの焼き
最後は「万遍返しの本焼き」により蒲焼に仕上げますが、表面がフラットなので、タレが絡まりながらも焦げることなく、飴細工のような「黄金色の蒲焼」が完成します。
万遍返しとは、鰻を何回も返していくことですが、焼き台の上で柔らかく蒸された鰻の返しや移動にはかなりの技術や経験が必要とされます。炭火の温度を感じ取り、必要な場所に必要な時間鰻を置き、皮目と身の両面にしっかり火を通す技術は「焼きは一生」といわれる所以だと思います。ちょっと気を抜けば焦げてしまいます。焦がさず艶のある飴色に仕上げる焼きの技術も難しく、これを極めれば上品な食感と味わいを生み出すことができます。
いかがでしょうか。最初にお話ししたように、味には嗜好が絡みますので、焦げているものが不味いとはいいませんが、日々技術を磨きながらプライドを持ってこのような考え方で鰻を焼いているお店もあるのです。
のだやのオープン当初、お客さんのなかで「私は焦げたのが好きだから、よく焼いてね」というお客さんもいましたが(お断りしましたが)、どんなお店にもお店によってのスタイルや考え方がありますので、自分に合ったお店を見つけてそこに通うことをおススメします。
また、今回のお話とはあまり関係ありませんが、出てきた鰻にいきなり大量の山椒をかけ始めるお客さんもいますが、まずは一口、山椒をかけずに鰻の味を味わってみてはいかがでしょうか。その後、お好みで山椒が必要な場合は、鰻の上から振りかけるよりも鰻をちょっとめくってご飯の上にハラハラとかけ、その上から鰻を被せて召し上がってみてください。きっと繊細な鰻の味をさらに楽しめることと思います。今回は、一食のうな重に込められた思いや技術について触れさせていただきましたが「串打ち三年、割き八年、焼き一生」、焦げていない鰻には、やはりこの言葉の3つが関係していたようです。
(文=江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部代表)