社内制度や受発注システムなどの社内インフラは、旧ルネサス側にほとんどが統一された。もちろん、会社が統合すればどちらかに片寄せするのは当然。だが、あまりにも旧ルネサス偏重だという。「統合というより吸収されたみたいだ」とのぼやきが、NEC出身者からは聞こえてくる。日立色が強いにもかかわらず、株主構成が下手に3等分されているため、社内融和は進まない。ようやく今年度から労組や賃金体系が統一された、こうした指摘に日立幹部は困惑の表情を浮かべる。「そもそも上場している独立会社である3社が合併してできたのだから、どこかの色は出る。そんなことで日立が責任を持って(ルネサスを)助けろと言われても……」と漏らす。
日立はルネサス誕生前後に社会インフラ事業への回帰を掲げ、その後、半導体やハードディスクドライブ事業を切り出した。この戦略が奏功し、ソニーやパナソニックなど家電を核とする他の電機メーカーが苦戦する中、業績はひとり勝ち状態。時価総額も、昨年、電機首位を取り戻した。日立にしてみれば、今さら09年3月期に製造業最大の赤字計上の元凶となった半導体事業への支援など、株主に説明がつかないというわけだ。「会社誕生前後に3社で計2000億円を増資した。それが手切れ金であることはルネサスも認識していたはず」(前出の日立幹部)と語る。
必死の経産省――”親”の日立へ支援要請
一方、離れつつある「親子」の仲を必死に取りもとうとするのが経産省だ。ある経産省職員は、「ルネサスは自動車エンジンの心臓部となるマイコンなど、製造業の肝となる半導体を手がけている。付加価値が低い汎用メモリーを手がけるエルピーダとは異なる」と、ルネサス救済の必要性を語る。すでに経産省幹部が日立への要請に動いているが、難航している。
ただ、ルネサスの業績もあり、親会社3社以外に救済の手を差し伸べる企業は、今のところ見あたらない。経産省はトヨタ自動車への打診を試みたが、すでに断りを入れられている。トヨタ関係者は「昔から何度もある話だが、支援する気はさらさらない」と語る。リーマンショック後、業績に苦しむ旧NECエレを救おうという気運がトヨタ社内にあり、幹部が渡辺捷昭社長(当時)に話を持って行ったが、「聞いたこともない会社だな」と一蹴されたというのは、関係者の間では有名な話だ。それ以降、この話はタブーになったという。「現在の豊田章男社長は渡辺さんとは犬猿の仲だが、そこだけは一致している」との皮肉すら聞こえてくるほどだ。
こうした状況を踏まえれば、結局は日立がメンツから重い腰を上げる可能性は高いが、救済に動いたところで大きな問題は残る。外資系アナリストは「たとえ5500人の首を切って、600億円の増資をしても、それが抜本的な解決策になるのか」と疑問を投げかける。
エルピーダと同様、「見捨てられる」Xデイは近い?
ルネサスはリストラを断行したあと、ひたすら赤字を垂れ流し続けるシステムLSI事業を本体から切り離す方針。同事業は特注品が多く、日本勢のデジタル家電の大不振で在庫が積み上がっている状況だ。
ただ、同じくシステムLSIに苦しむパナソニックや富士通と官主導で事業統合を模索したが、エルピーダ問題で協議は止まったまま。ルネサスを除く2社は「自社だけでソフトランディングできるのでは」との姿勢に傾いており、協議を再開しても話がまとまるかは不透明。ほか2社と異なり、ルネサスが自社で整理に乗り出すとなると、人員削減は1万人を超える規模となるだけに、資金調達なども新たなスキームが必要となる。