しかし、鈴木氏によれば、だからといって視聴率の数字が十分なものになったわけではないという。
「録画視聴が多くなっているのは事実で、タイムシフト視聴率を加えるのは当然でしょう。とはいえ、この数字を鵜呑みにして一喜一憂するのはいかがなものでしょうか。なぜなら、現在の調査はテレビのない家庭を最初から除外しているので、視聴率の分母が100%ではない。20代の単身者では、約10%がテレビを所有していないのです。
欧米では率ではなく、視聴者した人数で表現するようになっています。これだと、たとえばリアルタイム視聴者〇〇人、録画再生△△人、ネット経由で見た人◇◇人、合計□□人で、コンテンツのパワーをわかりやすく表現できるようになります」(同)
プラスマイナス2%以上の誤差がある視聴率
しかも、視聴率には「誤差」がつきもので、正確さという意味では疑問符がつくという。実際、ビデオリサーチのホームページにも誤差があることが明記されている。
「サンプル数600世帯で視聴率10%というのは、本当は7.6~12.4%のどこかということ。プラスマイナス2.4%の誤差があるんです。サンプル数を900世帯に増やすと、この誤差がプラスマイナス2.4%からプラスマイナス2%になりますが、それは『視聴率10%の番組が、実は8~12%だった』ということしか意味していない。だから0.1%の多寡で一喜一憂しても意味がないのです。」(同)
では、なぜテレビ局はそこまで視聴率にこだわるのか。それは、もちろん視聴率がCMの価格に直結しているためだ。スポンサー各社が視聴率を重視し、テレビCMを打つ際の指標としている以上、テレビ局も視聴率を上げることに重きを置かざるを得ない。
「視聴率に誤差があることは、みんな知っている。しかし、ほかに使える指標がないので、テレビ局は誤差があるとわかっていながら、0.1%に血道を上げているのです」(同)
そもそも、テレビCMには「タイムCM」と「スポットCM」の2種類があり、たとえば、1月クールのドラマで最高視聴率を記録した『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)が放送された「日曜劇場」という枠はタイム広告が中心。スポンサーは東芝など大手4社で占められている。
「タイムCMは半年くらい前からその番組に広告を出す契約をしていて、金額も決まっている。視聴率が1~2%動いても、すぐには契約に影響が出ません。ただし、低い数字が続くと、次の契約のときに『数字が悪かったから、もう1000万円も払えませんよ』と値下げを要求されることになる。つまり、視聴率がロングレンジで価格決定に影響するのがタイムCMです」(同)
スポットCMとは、「のべ視聴率」を基準に契約するCMのことだ。「新製品が出たので、1カ月間に15秒のCMを合計1000%露出してください」という契約で、番組も時間帯も指定できない。テレビ局側のCM枠の状況により、ゴールデンタイムに流れるかもしれないし、早朝に流れるかもしれないわけだ。