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「西友」争奪戦、イオンとドンキが買収を競う理由…確実に利益出る店舗ばかりか

文=Business Journal編集部、協力=中井彰人/流通アナリスト
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西友の店舗(「Wikipedia」より/Suikotei)

 GMS(総合スーパー)・西友の争奪戦が熱を帯び始めている。西友の株式の85%を保有する米投資ファンド・KKRが株式売却手続きを進めており、GMSのイオン、ディスカウントストアのドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)などが株式取得に名乗りをあげているとみられる。かつて親会社だった米ウォルマートとの資本関係が薄れ、西友は上場による単独経営を目指しているとも伝えられていたが、なぜ他社による買収という道を選んだのか。また、西友の長期的な生き残り・成長という観点でみると、イオンかPPIH、もしくは他の小売企業や投資ファンドなど、どこが買収すればより大きな相乗効果が生まれると考えられるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 1963年(昭和38年)創業の西友はコンビニエンスストア「ファミリーマート」や日用品・雑貨店「無印良品」を生んだことでも知られている(ともに現在は他社が運営)。1990年代に入ると経営危機が叫ばれるようになり、2002年には米国ウォルマートの傘下に入り、08年にはウォルマートの完全子会社となり上場を廃止。21年には、「楽天西友ネットスーパー」で協業していた楽天グループが西友の株式の20%を取得し関係を強化し、同年にはウォルマートは西友株の85%をKKRに売却。その後、23年には楽天は保有する西友株をKKRに売却。同年にはウォルマートの基幹システムを西友独自のものに入れ替える大規模なシステム更新作業を行い、ウォルマートとの関係解消を進めてきた。

 24年には北海道の店舗をイオン北海道に、九州の店舗をイズミに売却して事業を本州に集中させる方針に転換。現在の全国の店舗数は約240店舗であり、「EDLP(エブリデー・ロープライス)」を掲げ、日用品から食品まで幅広いラインナップを取りそろえるPB(プライベートブランド)「みなさまのお墨付き」に代表される低価格がウリ。23年12月期決算は売上高が6648億円(前期比5.8%減)、営業利益は260億円(同24.8%増)、経常利益は270億円(同29.6%増)となっており、近年は黒字が定着している。

当初から事業のばら売りを想定か

 前述のとおり西友はウォルマートからの自立を契機に上場を目指しているとも伝えられていたが、流通アナリストの中井彰人氏はいう。

「国内最大手で全国展開するイオンですらGMS事業は赤字になる期もあり、イオングループ内のイオンモールや金融、不動産をはじめとする他の事業とセットで存続している状況です。よってGMS事業単独で成長戦略を描くことは非常に困難であり、西友・KKRとしては当初から単独での上場ではなく事業のばら売りを想定していたと考えられます。実際に北海道と九州の店舗事業は他社に売却し、不採算店舗の整理も行って大幅に縮小した上で、最後に本州に残った事業を他社に売却しようとしています。

 現在のスーパーマーケットのプレイヤーをみると、全国展開できているのは事実上、イオンしかなく、例えばオーケーやヤオコーは関東圏に、イトーヨーカドーは東日本に集中しており、各地域に強い地場のスーパーが存在するという状況です。なので西友を買収してメリットがある同業としてはイオンしか存在しないというのが実情です」

 では、イオン、PPIH、そして応札企業として名前があがっているディスカウントストアのトライアルホールディングスのどこが買収すれば、より高い相乗効果が生まれると考えられるのか。

「まずイオンについていえば、グループ内にさまざまなブランドのスーパー、ドラッグストア、リカーショップまであらゆる業態の店舗を保有しており、一定の集客が見込める立地であれば、とにかく多くの店舗を取得して、あとはそれぞれの立地にあった業態店をいかようにも展開可能なので、西友を取得しにいくのは当然です。また、PPIHは18年にGMSのユニーを買収し、融合店や新業態店を増やすことでユニーの業績は大きく改善・伸長しました。同じ手法で、例えば西友の店舗の1Fを食品売り場、客が少なかった2階より上層階はドン・キホーテといったかたちに改装することで、店舗売上を伸ばすことができるでしょう。そしてトライアルは西友よりさらに踏み込んだ低価格路線であり、取得した店舗をトライアルに衣替えするという方法もあるでしょう。

 残存している西友の店舗は、不採算店舗の整理の末に生き残った立地が良い“利益が出やすい店舗”ばかりであり、さらに首都圏の駅近店舗も多く、買収する側はその優良な店舗網を獲得できるわけですから、メリットは大きいです。

 たとえばイオンにしても首都圏の駅近店舗というのは多くはなく、西友の店舗網を獲得したいという思いは強いでしょうから、それなりに高い買収金額を提示すると考えられ、西友側としても店舗が『西友』というブランド名のまま残るのかどうかは別にすれば、単独での生き残りを模索するよりは好調な大手に買収されるというのはメリットが大きいといえます」(中井氏)

(文=Business Journal編集部、協力=中井彰人/流通アナリスト)

中井彰人/流通アナリスト:取材協力

中井彰人/流通アナリスト:取材協力

みずほ銀行産業調査部で小売・流通アナリストに12年間従事。2016年退職後、中小企業診断士として独立、開業。同時に、流通関連での執筆活動を本格化、TV出演、新聞、雑誌などへの寄稿、講演活動などを実施中。2020年よりYahoo!ニュース公式コメンテーター、2022年Yahoo!ニュースオーサーを兼務。主な著書「図解即戦力 小売業界」(技術評論社)。現在、東洋経済オンライン、ダイヤモンドDCSオンライン、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT等で執筆、連載中。
中井彰人

Twitter:@nakajalab

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