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気楽に食べたら死ぬ?と物議醸す松屋・水煮牛肉、プロが「屈指の傑作」と絶賛

文=Business Journal編集部、協力=稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長
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松屋「水煮牛肉」(公式サイトより)

 今月7日に牛丼チェーン「松屋」が発売したガチ中華メニュー「水煮牛肉~四川風牛肉唐辛子煮込み~」(1180円/税込/以下同※単品は980円)が「本当に辛い」「凄まじかった」「気楽に食べたら死ぬ」「あるまじき量の香辛料」などと“物議”を醸している。水煮牛肉は代表的な四川料理の一つで、松屋は「牛肉の旨味とシャキッとした玉ねぎやキャベツの甘味をアツアツの激辛スープで煮込んだ逸品」「鶏ベースのスープにたっぷり唐辛子、花椒、辣油をミックスし辛さはMAX」と謳っているが、味のクオリティや価格の妥当性をどう評価すべきか。また、1000円超えと牛丼チェーンとしては高価格帯といえるが、松屋がこのような商品を発売した狙い・背景は何であると考えられるか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 店舗数ベースでは「すき家」「吉野家」に次ぐ牛丼チェーン3位で1082店舗(2024年12月現在)。主力メニューの「牛丼 並盛」(松屋は「牛めし」)の価格を比較してみると、松屋は430円、吉野家は498円、すき家は450円となっており、大手牛丼チェーン3社のなかではもっとも低価格となっている。

「牛丼店のカレー」のパイオニアと称される「松屋」は、牛丼以外、もしくは既存の牛丼という概念を超える商品の投入に注力していることでも知られている。一昨年から今年にかけての期間限定品を含めた新商品をみてみると、「ブラウンソースチーズハンバーグ定食」(1030円)、「シュクメルリ鍋定食」(930円)、「チーズシャリアピンソースハンバーグ定食」(1050円)、「キャベツとベーコンのペペロンチーノ牛めし」(並盛:650円)、「リトアニア風ホワイトソースハンバーグ定食」(880円)などを相次いで投入。昨年10月には期間限定で“ラーメン二郎系”の白飯の上に牛肉、野菜、刻んだニンニクが山盛り状態で乗せられた「ニンニク野菜牛めし」(通常サイズ:790円)を一部店舗で販売し話題を呼んだ。

 松屋はカレーメニューに力を入れている点も特徴だ。かつては290円で販売していた「オリジナルカレー」は根強い人気を誇っていたが、この20年の間に徐々に値上がり、23年1月には「オリジナルカレー」の販売を終了する一方で、終売となっていた「創業ビーフカレー」をリニューアルするかたちで「松屋ビーフカレー」を発売。また、年1回の期間限定販売で人気が高かった「ごろごろ煮込みチキンカレー」を22年5月に突然、レギュラーメニュー化したものの、同年12月にレギュラー販売を終了。そして昨年10月には再び「オリジナルカレー」と「ごろごろ煮込みチキンカレー」をレギュラーメニューとして発売した。

 現在は期間限定商品として水煮牛肉のほかにも「3種ソースのグラタンハンバーグ定食」(1050円)、「カットヒレステーキ丼」(1180円)、「牛豆腐キムチチゲセット」(750円)を販売している。

「期間限定メニューのバラエティーの幅広さという点では、牛丼チェーンのなかでは群を抜いているといっていい。毎年今の季節に吉野家、すき家が提供する『すき焼き』系メニューを扱わず、差別化を図り、それ以外で勝負しようという姿勢を感じる。吉野家は現在、新たな主軸を立てるべく鶏の唐揚げとハヤシライスに力を入れているが、牛丼をメインとするチェーンであっても、常にリピート客に足を向けさせるためには牛丼以外のメニューも重要になってくる。牛丼目当てで来た客が店内のポスターを見て『たまには奮発して特別感のある期間限定を食べてみよう』となるケースもあり、客単価の上昇にもつながる。松屋フーズグループの既存店売上高をみると直近1年間は全月で前年同月比1~2割増をキープしており、現在の路線は戦略的には成功しているといっていい」(外食チェーン関係者)

「松屋の外国料理シリーズのなかでも屈指の傑作」

 そんな松屋の新メニューで話題を呼んでいるのが「水煮牛肉」だ。その味のクオリティや価格の妥当性をどう評価すべきか。飲食プロデューサーで南インド料理専門店「エリックサウス」総料理長の稲田俊輔氏は次のようにいう。

「松屋は、日本であまり知られていない世界の食文化を積極的にメニューに取り込む、ということにチャレンジし続けています。今回の水煮牛肉もその一環といえるでしょう。ヨーロッパ系の料理をメニュー化する場合、レギュレーション的な制約や、米に合わせる前提の日本人好みの味にする必要もあり、どうしても多少思い切ったアレンジも必要になります。しかしアジア系の(炒め物や揚げ物以外の)料理では、こういった制約も少なく、より無理のないメニュー化に適しているということがいえるでしょう。

 とはいえもちろん、アレンジがなされていないわけではありません。水煮牛肉は本場のものも含めて、日本人的感覚だと『汁だくの煮物』ないし『具沢山の汁』のように見えるかもしれませんが、実はそうではありません。本来は、激辛の汁に浸った具材のみを引き上げて食べる料理であり、その汁を飲むことはありません。そもそも汁の上部は大量の香味油と香辛料の層に覆われていて、そこから汁だけをすくうことは物理的にも無理なのです。

 しかし松屋の場合、そこはうまくアレンジを利かせて、汁も飲もうと思えば多少は飲める程度の仕様に落とし込んでいます。実際お膳にはスプーンも添えられています。POPには『スープは香り、具材を味わう、それが本当の楽しみ方。』という、本来の食べ方を示唆する文言もありますが、これはもう少しわかりやすく強調しておいても良かったのではないかとは思います。少なくとも(POPに従い)具材のみを引き上げて米と一緒に食べる分には、そんなに極端すぎる味付けでもありません。辛い味、濃い味が好きな方なら、汁も多少はすくって飲むことになるでしょう。もしかしたら、なかには汁をご飯にかけたりして『完飲』する人だっているかもしれません。汁にはしっかりとダシ的な旨味も利いています。本場同様、辛味・香り・塩味を軸としつつも、いうなれば激辛ラーメンのスープに近いものにもなっているともいえるでしょう。ただし、唐辛子や花椒がそれなりの量入っている割に、その香り立ちはさほど強くありません。油を減らしている分、そこは致し方ない部分ではありますが。

 いずれにせよ、『本格的』という印象と共に、甚だしいまでに満足感の高い、記憶に残る味です。1000円超えの価格を高いと感じる人も、なかにはいるかとは思いますが、他では体験できない非日常的な味に触れるというエンターテインメント性も含めて考えれば充分すぎるコストパフォーマンスであり、これまでの松屋の外国料理シリーズのなかでも屈指の傑作なのではないかと個人的には思います」

(文=Business Journal編集部、協力=稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長)

稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長

稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長

料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店の展開に尽力する。2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。現在は全店のメニュー監修やレシピ開発を中心に、業態開発や店舗プロデュースを手掛けている。近著は『食いしん坊のお悩み相談』(リトル・モア)。

Twitter:@inadashunsuke

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