そして、鈴木氏によると、視聴率というのは、このスポットCMにこそ大きく影響するという。
「あるCMが『1000%で1億円の契約』だった場合、合計で1000%取ればいいわけだから、極論すれば視聴率20%の番組ばかりで流せば『15秒CMを50回』で1000%を達成できます。ところが、視聴率5%程度の番組ばかりの場合、1000%を達成するためには200回も流さなければならない。
もともと、テレビは1日あたり24時間しか広告枠の売り場面積がないビジネスです。その24時間のうち、CMを流せる時間は計2時間半ぐらいと決まっている。視聴率が好調なテレビ局なら、あっという間に1000%を消化することができ、どんどん収益を上げられますが、数字が悪い局はなかなか1000%を消化できず、次の契約も取れなくなる。だから、誤差があるとわかっていても、テレビ局は0.1%の視聴率にこだわらざるを得ないのです」(同)
ネット同時配信で「視聴率」は死語になる?
しかし、テレビを取り巻く環境が、今後もっと変化していけば、誤差があり曖昧な視聴率も正確なものにならざるを得なくなる。その環境の変化のひとつが、15年10月に民放5局が連携して開始した公式テレビポータル「TVer(ティーバー)」だ。
「TVer」とは、オンエア後1週間に限って無料でテレビ番組を配信する「見逃し配信サービス」のこと。広告収入で成り立っているが、CMを飛ばせないようになっているため、単価をより高く設定できる。
何より、テレビとの大きな違いは、ネット配信はウェブサイトのPV(ページビュー)数と同じように、番組を見た視聴者の実数が出るということだ。
「総務省は、19年からテレビ番組のネット同時配信を実施する方針といわれています。全番組をテレビとネットで同時配信するとなれば、もうチューナーを内蔵した従来のテレビは必要なくなります。外ではスマホで番組を見て、家ではスマホからモニターに映像を飛ばしたりパソコンで見たりすればいい。そうなれば、視聴率は『率』ではなく、実際に番組を見た人の『数』になっていくでしょう」(同)
こうして見ると、今回のビデオリサーチによる視聴率調査の変更は、「視聴数」への移行期における、過渡的な措置とも思えてくる。いずれにせよ、近い将来、「視聴率」という言葉が死語になる日がやってくるのかもしれない。
(文=船山隆子/清談社)