東京電力ホールディングス(HD)が国に申請した新しい事業計画「新々・総合特別事業計画」が、「張りぼての計画」と市場の失笑を買っている。収支計画を示したものの、再稼働のメドが立たない新潟県の柏崎刈羽原発を再稼働する前提での皮算用でしかない。原発事業や送配電事業に関しては2020年代に他社と協業する方針を示したものの、他電力会社は公然と提携拒否を打ち出している。福島原発事故に伴う廃炉賠償費用が総額22兆円と倍増する見通しとなったためにつくり直した同計画について、「ほぼ不可能で非現実的」とみる向きもある。
震災以前を上回る収益シナリオ
「東日本大震災以前のブランド力が揺るがなかった頃の東電も達成できなかった数字を、達成するということですからね」(証券アナリスト)
5月11日に発表した東電の収益シナリオは、目を見張るものがある。震災後に継続してきた合理化に加えて、柏崎刈羽原発の再稼働、送配電や原子力分野での他社との再編統合を想定。今後10年以内に経常利益で前期比3割増の3000億円、将来的には4500億円を目指す計画だ。東電の過去最高益が06年度の4412億円であることを踏まえれば、挑戦的な数字といえよう。
もちろん、数字を叩き出す材料が揃っていれば、問題ない。だが、同アナリストは「すべてがうまく転んだケースを想定している。後手後手に回った震災対応から、果たして彼らは学んだのか」と首をひねる。
柏崎刈羽原発再稼働や再編統合
たとえば、柏崎刈羽原発の再稼働について、計画では再稼働の時期を特定していない。「2019年度以降」「20年度以降」「21年度以降」の3つの年度を仮定。それぞれで現在安全審査を申請中の6、7号機を含む4基が再稼働していくシナリオ、全7基が再稼働するシナリオの計6パターンを示した。この時点でなんとも収益見通しは流動的になるわけだが、柏崎刈羽原発は周知の通り再稼働をめぐり地元の同意を得られる見通しが立っていない。強硬な再稼働反対派の米山隆一新潟県知事の任期が20年までであることを考えても、19年度、20年度に稼働するとは考えにくい。
さらに、困難を極めそうなのが、他電力との再編統合だ。計画では、原子力事業、送配電事業で20年代に他電力と協力の枠組みを整えるとしている。ただ、相手先の具体名は明記されていない。今年の秋までに協力相手の要件などを決める方針だが、他電力は及び腰だ。
原発の協業対象となる東通原発は、2基の建設を計画しているが、1号機は11年の東日本大震災後に工事を中断し、2号機は計画の段階だ。同じ敷地内に原発を持つ東北電力などが提携先として有力視されるが、東北電は東電との再編統合については断固拒否する姿勢を隠さない。
当然だろう。福島第一原発の賠償や廃炉の費用が22兆円あまりに膨らむ見通しとなっており、他電力にしてみれば東電と組めば即座にリスクを抱え込むことになる。
意味のない計画
「そもそも東電は今回の事業計画を4月内に国に申請する予定だったが、国から『再編統合にもっと踏み込め』と横やりが入り、ゴールデンウイーク明けにずれこんだ。とはいえ、どこもブランドが地に落ちた東電と組むメリットはないのだから、踏み込みようがない。提携相手によほどのメリットを与えなくてはいけない」(電力業界関係者)
実際、東電改革のひとつの柱とされる、中部電力との共同出資会社JERAに既存の国内火力発電事業を統合する件については、「国も中部電には相当気を遣っている」(同)との声もある。
再稼働や再編統合の実現が絶望的になれば、前提が崩れ、計画はまるで意味を持たなくなる。事故関連費用だけが国民に重くのしかかることになる。
(文=編集部)