金融庁長官に森信親氏が就任してから、7月で2年になる。3年目へ続投の可能性が濃厚だが、有無をいわせぬ強圧的な手法に地方銀行の反発は強い。
全国地方銀行協会の中西勝則会長(静岡銀行頭取)は5月17日の定例記者会見で、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)と十八銀行が経営統合するのに際し、長崎県内のシェアを下げるため貸出債権の他行への譲渡を検討していることについて、「顧客不在であり、本末転倒だ」と述べた。中西氏の発言を、地銀の経営統合をゴリ押している森氏への痛烈な批判と受け止めた地銀のトップは少なくない。
公正取引委員会の審査を通すための方便として、取引先を無視した債権譲渡に走っていいのか、と疑問を呈したわけだ。
森氏は菅義偉官房長官の厚い信任を得ており、「次期日本銀行総裁」との呼び声もあるが、その強引な手法に、地銀のトップは沈黙を強いられている。「金融庁長官としての則を超えているのではないか」などとは、口が裂けても言えないのだ。
4月5日、新潟県で断トツの第四銀行と同2位の北越銀行が、経営統合することで基本合意した。2018年4月に共同持ち株会社、第四北越フィナンシャルグループを設立し、両行は傘下に入り、20年をめどに合併を検討する。統合すると資産規模は8兆4000億円で、全国地銀グループの16位になる。持ち株会社の会長には北越銀行の荒城哲頭取が、社長には第四銀行の並木富士雄頭取が就任する予定。本店所在地は北越銀行がある長岡市にするが、主な本社機能は第四銀行が本拠を置く新潟市に集約する。新潟県には3位の大光銀行があるが、それをさておき第四銀行と北越銀行が一緒になるのは、森氏の“指導”によるものだとの見方が強い。
地銀再編には3つのパターンがある。ひとつは県内1位と第2位の地銀の統合。第四銀行と北越銀行の統合はこれに当たる。2つ目は、メガバンク主導の再編。近畿大阪銀行、関西アーバン銀行、みなと銀行の3行統合がこれに該当する。3つ目は、県内トップに対抗する県内2位以下の連合。三重銀行と第三銀行の統合が典型的な例だ。
難問なのは県内首位と2位の統合だ。たとえば、長崎県首位の十八銀行と、同2位の親和銀行を傘下に抱えるFFGの統合計画に対して、公正取引委員会が「県内の貸出シェアが7割に達する」(地元の有力企業)として待ったをかけた。福岡銀行を核に、熊本ファミリー銀行(現・熊本銀行)、親和銀行の統合を主導してFFGを設立した福岡銀の谷正明会長は、十八銀行を傘下に組み入れることを狙ったが、公取委が谷会長の野望の前に立ち塞がった。谷氏は地銀再編について、「県境にとらわれない経済の道州制」と主張、県内シェアにこだわる公取委に対する不満を口にしている。