(「Thinkstock」より)
トヨタ自動車やホンダなどで一時金(ボーナス)の満額回答が続き、不振の電機でも、一部を除き定期昇給(定昇)は維持された。
労組側に成果の大きい展開となったのに、連合の古賀会長に笑顔はなかった。デフレ脱却を掲げる安倍首相が経営側に直接働きかけたことから、大幅な賃上げ回答が相次いだだけ。連合が交渉を重ねて回答を引き出しわけではない。連合の影は薄い。
今年の春闘の立役者は安倍首相だった。首相官邸のフェイスブックには、賃上げを決めた企業に「安倍総理が電話で御礼を述べた」リストが掲載されている。
企業名(HP公表日) 実施内容
★ローソン(2月7日):20代後半から40代社員を対象に、平均年収を約3%上げる。
★ソディック(2月13日):年間給与総額の2.5%を原資として、一定額を支給。
★ワークマン(2月19日):全社員を対象に、年収を平均約3%上げる。
★ジェイアイエヌ(JINS)(2月28日):全従業員に、正社員の平均年収の約6%相当を支給。
★セブン&アイHD(3月4日):月例給(定期昇給+ベースアップ)を、組合員平均5229円(前年度比1.5%)引き上げ。
★ファミリーマート(3月7日):1.5%の定期昇給と賞与増額で、年収を2.2%引き上げる。
★ファンケル(3月8日):店舗契約社員約1100人を対象に月額2万円のベースアップを行い、年収を平均9.6%アップする。
★ニトリ(3月11日):1人平均2.31%、金額7159円(定期昇給+ベースアップ)引き上げる。
今年の春闘で、連合は「給与総額の1%」の賃上げを求めた。これに対して、経団連は定昇の凍結・延期の可能性にまで言及。春闘を引っ張る自動車や電機は早々とベースアップ(ベア)を見送り、年間一時金に絞って交渉に臨んだ。
定昇とは毎年、年齢や勤続年数に応じて賃金水準を上げること。ベアとは、定昇分以外の賃金水準を物価の上昇など経済情勢の変化に合わせて引き上げること。定昇とベアをめぐる攻防が例年のパターンである。
身近なところからアベノミクスの成果を上げたい安倍首相が、賃上げに直接介入した。デフレを脱却して景気を本格回復させるには月給を底上げし、消費に直結するベアの引き上げが不可欠だからだ。円安・株高のアベノミクス効果を追い風に、安倍首相は経団連などの経済団体に賃上げを要請した。安倍首相の直接行動に呼応するかのように、連合が要求すらしなかったベースアップを含む賃上げを表明する経営者が相次いだ。
最初に動いたのは、コンビニエンスストア大手のローソン。ボーナスの上乗せで若手社員の年収を3%(15万円)アップすると表明した。セブン-イレブン・ジャパンを傘下にもつセブン&アイ・ホールディングスは、ベアと定昇で平均12万円の賃上げで妥結した。
ファミリーマートは、定昇実施のみでいったん妥結していたが、「一時金を含め、いい流れになってきた。ローソン、セブン-イレブン、次はファミマに期待している」と甘利明・経済再生相が口先介入する。「賃上げしなかったら、ファミマはけしからん」といわんばかりの発言だ。ファミマは上田準二会長が「1.5%の定昇に加えて、賞与を12年度より増額することで、2013年度の年収を平均で2.2%引き上げる」ことを決定した。コンビニ3社の賃上げをきっかけに、定昇の確保を前提に、一時金をどこまで積み上げるかに変わった。
永田町では、ローソンが最初に賃上げの方針を打ち出したのは新浪剛史社長と甘利経済再生相が組んだ「デキレース」と看破していた。甘利氏は昨年9月の総裁選で安倍陣営の選対本部長を務め、勝利したことで、いまの地位を得た。ポイントを上げるために目をつけたのが賃上げである。
ローソンの新浪社長と“談合”したわけだ。ローソンが口火を切って賃上げの流れを作ることで一致した。ローソンの回答がセブン&アイのベアを引き出し、「次はファミマ」と迫ったわけだ。