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ドンキホーテの売上を倍増させた元“叩き上げ”剛腕社長は、なぜ犯罪に手を染めたのか?

文=編集部
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東京都・府中市にあるドン・キホーテ1号店(「Wikipedia」より/Fuchu)

 ディスカウント大手、ドンキホーテホールディングス(HD/現パン・パシフィック・インターナショナルHD)に対するTOB(株式公開買付け)をめぐり、TOB公表前に知人に自社株の購入を不正に勧めたとして、東京地検特捜部は12月3日、ドンキHD前社長の大原孝治容疑者(57)を金融商品取引法違反(取引推奨)の疑いで逮捕した。東証1部上場企業のトップだった人物がインサイダー取引規制に抵触したとして、刑事責任を追及される異例の事態となった。

 2018年10月11日、ユニー・ファミリーマートHD(現ファミリーマート)は、TOBを実施してドンキHD株の20%にあたる約3210万株を約2100億円で取得すると公表。ドンキHDも同日、ユニー・ファミマHD傘下のユニー株をすべて取得し、ユニーを完全子会社にすると発表した。

 逮捕容疑は、大原容疑者がドンキHD社長だった18年8月頃、知人男性に自社株を購入するよう勧めた疑い。知人男性と親族は公表前の9月上旬~10月上旬にドンキ株7万6500株を約4億3000万円で取得した。TOB公表前の9~10月上旬に5000円台で推移していたドンキHD株は公表後に6000円台後半まで上昇しており、知人男性らは高値で売り抜け、およそ6000万円の利益を得たという。

 大原容疑者は逮捕前の調べに「TOB実施を承知のうえで取引を勧めたことはない」と否認。知人は「買ったほうがいいと言われて買っただけ」と話したという。大原容疑者に適用された「取引推奨」の規定は、14年6月から施行された改正金商法で「情報伝達」とともに導入された。会社関係者がインサイダー取引の対象となる未公表の情報を知り、他人に利益を得させる目的で株取引を勧めることを禁じている。取引推奨のみの容疑での初めての逮捕となった。情報を知らないまま勧めを受けて購入した側は処罰対象にならない。

一店員からの叩き上げがトップに

 大原氏は店員からの叩き上げ。「驚安の殿堂」のトップまで昇り詰め、社長在任中に売上げを倍増させたやり手として知られる。創業者の安田隆夫氏は、営業に関する権限を各店長に委譲。店長は商品の仕入れから販売まで全責任を負って店舗を運営する。結果が出たときには必ず昇給・昇進し、ダメなときには減給・減給という、信賞必罰のシンプルな人事評価をする。これで若手の店長が多数、誕生した。

 抜擢組の筆頭が大原氏だった。1993年、30歳前後でドン・キホーテ(当時)に入社し、府中店の売り場を担当。商才を認められ、入社後2年の間に店長として木更津、幕張、市原店を立ち上げた。店長としての辣腕と実績が認められ、入社2年後の95年に取締役第二営業本部長に就いた。

 安田氏の右腕となり2014年に社長に昇格。15年6月、安田氏は会長兼CEO(最高経営責任者)を退任、大原氏が後任のCEOに就いた。安田氏から託された使命は「ドンキをセブン&アイHD、イオンに肩を並べる第3の小売業に成長させること」だった。

 大原氏は社長在任中、攻めの姿勢を貫いた。社長に就いた15年6月期に306店だった店舗数は19年6月期に693店まで増加。売上は6800億円から1兆3000億円へと倍増した。

 大原氏の最大の功績は、ユニー・ファミマHDと資本・業務提携を結び、総合スーパー、ユニーの全株式を取得して傘下に収めたことだろう。長崎屋で成功したのにならって、ユニーをドンキ化し、大型ディスカウント店「MEGAドン・キホーテUNY」に業態転換させ、見事に再生させた。

 ユニー・ファミマHDとドンキHDの提携発表の席上、大原氏は「総合スーパー、ディスカウントストア、コンビニの3業態を持つ流通グループになる」と意気軒昂だった。株式市場の評価は高く、株式時価総額はセブン&アイHD、イオン、ユニクロのファーストリテイリング次いで小売業の第4位に駆け上がった。ファミマと手を組むことをテコに、セブン&アイHD、イオンに迫る流通グループとなることが、ほぼ約束された、といっていい。

退任は唐突だった

 ドンキHDは19年1月31日、臨時株主総会を開き、2月1日付でパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)に社名を変更し、安田氏が取締役に復帰する人事案を承認した。PPIHは19年9月25日、社名変更後、初の定時株主総会を開催し、新体制がスタートした。コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニー出身の吉田直樹氏が社長兼CEOに就任。大原氏は社長兼CEOを退任し、米国事業の統括会社社長に専念する、という触れ込みだった。

「米国事業に打ち込み、大輪の花を咲かせたいというロマンとモチベーションを前から持っていた」。社長交代を発表した19年8月の決算説明会で大原氏は、米国法人の社長職に専念する考えを示し、こう語っている。

 安田氏は環太平洋、大原氏は米国、吉田氏が国内を担当し、PPIHをグローバル企業に変貌させるというシナリオだったはずだ。ところが同年12月6日、PPIHは「大原氏は9月25日をもってグループ全ての役職を辞任し、グループ全ての役職から離れた」と発表した。2カ月以上経って、株主総会の日に退任していたと公表したのである。不可解なことだった。

 PPIHは「本人の申し出によるもの」としているが、この説明を額面通り受け取る向きは皆無だった。はっきりしているのは安田氏が大原氏を切ったという事実だ。功労者だったはずの大原氏をなぜ、見捨てたのか。これが大きな謎であった。

 大原氏の逮捕で、その理由がはっきりした。証券取引等監視委員会が強制調査に乗り出したのは19年11月。その直後の12月6日、大原氏の退任が発表されたということなのではないのか。

 インサイダー取引疑惑に激怒した安田氏が「大原とは一切の関係を断てと指示した」(関係者)ことが逮捕後、社内の証言で明らかになった。大原氏は得意の絶頂から塀の内側に、一直線に落下したのである。

(文=編集部)

【続報】

 東京地検特捜部は12月23日、ドンキ前社長・大原孝治容疑者を金融商品取引法違反(取引推奨)の罪で起訴した、と発表した。認否は明らかにしていない。

 特捜部の発表によると、大原容疑者は2018年8月上旬、ユニー・ファミリーマートHDがドンキにTOBを実施する決定をしたと知り、9月に知人にドンキ株を購入するよう複数回、勧めたという。知人は10月上旬にかけて計7万6500株を約4億3000万円で購入し、TOB公表後、値上がりした株を処分した、という。

BusinessJournal編集部

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