東芝と米ウエスタンデジタル(WD)は、東芝メモリの売却をめぐって、戦闘状態に突入した。WDは「メモリ事業の分社化と売却は契約違反」と主張して、国際仲裁裁判所に仲裁申し立てを行い、加えて米カリフォルニア州の上級裁判所に訴訟を提起した。
一方、東芝は「WDが東芝メモリの売却を妨害し、東芝の信用を棄損している」として東京地方裁判所に1200億円の損害賠償を求めるなどの裁判を起こすとともに、WDに対して開発データへのアクセスを遮断してしまった。
要するに、東芝とWDはこれから3つの裁判を争うことになり、さらに上記アクセス遮断により、東芝とWDとのNANDフラッシュメモリの共同開発体制は崩壊しつつある。
本稿では、これら3つの裁判が起きてしまった経緯を詳しく述べる。これら裁判が続けば、東芝も、東芝メモリも、WD(のNAND)も破綻するかもしれない。紛争を終結させ破綻を回避するには、「誰か」が仲裁を行うしか道はないことを論じる。
東芝とWDの戦闘:第1ラウンド
東芝とWDが戦闘状態に突入する発端は、東芝メモリが設立された直後の4月9日に、WDが東芝の取締役会に書簡を送りつけたことにあった。その書簡でWDは、当初の契約を盾にとって、「NAND事業の分社もその売却も契約違反」とする意見を主張した。
一方、東芝は5月3日、WDに対して「東芝側は売却する権利がある」と反論する書簡を送り、「5月15日深夜までに入札に関する『妨害行為』を停止しなければ、四日市工場からWDの技術者を締め出す」と警告した。
これに対してWDは米国時間5月14日、東芝のNAND事業売却差し止めを求めて、国際商業会議所(ICC)の国際仲裁裁判所に仲裁申立書を提出した。国際仲裁裁判所とは、日本を含む130カ国が参加する国際商業会議所の下部組織で、複数の国にまたがるビジネス上の紛争を解決することを目的としている。同裁判所の判断に一方の当事者が従わない場合、もう一方の当事者側は強制執行できるという。
同裁判で知られる事例として、スズキと独フォルクスワーゲンの提携解消をめぐる紛争が知られているが、和解までに4年もかかった。ところが、ある法律事務所によれば、これなど早いほうで、和解までに10年以上かかるケースも珍しくないという。