こんな裁判をやっている間に、東芝は債務超過が回避できず上場廃止となり、場合によっては経営破綻してしまうだろう。そして、裁判の結果が出る前にNANDビジネスは両社の意向が統一できず、開発も投資も滞り、死に至ることになる。
東芝の綱川智社長は5月15日の記者会見で、NAND事業の売却について「契約違反ではない」「WDと決裂したわけではない」「(合意時期は)決まっていないが、できるだけ早くしたい」と述べたが、WDが裁判という手段に出た段階で決裂は決定的であるようにみえる。
そして問題の焦点だったWDに対する締め出しについて東芝は5月16日、「問題解決のために協議を継続しており、(WDへの)アクセス制限の判断を保留した」と表明した。紛争は2次入札前に一時休戦となった。
東芝とWDの戦闘:第2ラウンド
5月19日に東芝メモリ売却の2次入札が行われたが、WDは応札しなかった。「東芝のNAND事業の分社化も売却も契約違反」と主張するWDとしては、「東芝による入札行為自体が契約違反」であろうから、応札を見合わせたのだろう。応札すれば、契約違反の行為に加担していることになり自己矛盾に陥るからだ。
ならばWDは、3月29日の1次入札になぜ応札したのか。なぜ1次入札前に「それは契約違反である」と主張しなかったのか。まったくWDの行動は理解に苦しむ。
その後、WDのミリガンCEOは来日して、日本政府や経産省幹部らと面会し、「東芝のNAND事業の分社化も売却も契約違反」であり、「四日市工場の技術が中国や台湾に渡れば、国際安全上の問題が生じる」ことを盛んに警告していた模様である。
これに対して6月3日、東芝本体が四日市工場の合弁会社株を、分社化した東芝メモリ側から買い戻した。これは、WDが国際仲裁裁判所に「東芝のNAND事業の分社化は契約違反」であると訴訟を提起し、そのことを世間に騒ぎ立てているため、「ならば、分社化したことを取り消して、東芝メモリを東芝に戻せば文句ないだろう」と東芝が考え実行に移したわけだ。これによって、東芝は「WD側が主張する違反事項はなくなった」として、WD側が国際仲裁裁判所に仲裁申し立てをする根拠がないと発表した。
ところがWDは、「東芝が合弁会社株の持ち分を、WDの合意なしに東芝メモリに移管したり、それをまた戻したりする行為そのものが契約違反」として、国際仲裁裁判所への仲裁申し立ては取り下げない意向を明らかにした。
両社の行動や言動には、呆れ果てるばかりである。両社ともに、屁理屈を並べ立てて不毛な戦闘を行っているとしかいいようがない。