これに対して、ROEの低下はEPSを押し下げ、ついでに株価をも押し下げるということになります。そういうこともあって、ROEは株式投資家によって重視される傾向があります。
前出の日経新聞記事によれば、日本企業は自己資本比率は上昇したものの、ROEが伸び悩んでいるので、日経平均は2万円程度をつけたものの、かつての史上最高値(1989年の3万8915円)に遠く及ばないと指摘しています。
処方箋:意外に認知されていない自社株買いの効用
このような状況における株価上昇のための手っ取り早い処方箋は、自社株式の買い取りです。つまり、自己株式を購入して株主資本を低くし、これによってROEの分母を押し下げ、ROEの上昇を図るというものです。実はそういう行為に関して、日本企業の経営層は強い抵抗感を感じているように思われます。
しかし、今日のような経済情勢では、自社株式の購入には決して小さくないメリットがあります。以下、自社株購入のメリットを、個別企業を例に挙げて説明したいと思います。
(例)A社の17年3月期における主要財務データ
総資産:582億7300万円
株主資本:501億9000万円
自己資本比率:86.1%
ROE:5.1%
売上高:499億4200万円
当期純利益:25億5400万円
発行済み株式総数:2208万株(期中平均)
一株当たり純資産(BPS):2273円
一株当たり配当(会社予想):69円
A社は自己資本比率が86.1%と堅実な経営をしており、過去5年間のいずれの年度においても黒字経営が行われております。一方、ROEは5.1%の低水準にとどまります。つまり、A社は高い自己資本比率と低いROEという、今どきの日本企業を象徴するような会社ですが、日本にはA社のような企業がたくさんあります。
このA社において、たとえば自己株式を購入するというスキームを当てはめてみましょう。A社の6月のある日の株価は1870円でした。たとえば、500万株の自己株式購入を決めたとします。すると、最低でも93億5000万円(=1870円×500万株)の資金が必要になります。現実には、それだけの買いが入るのであれば、株価は上昇することが予想されますので、500万株を購入するのに110億円かかるとしましょう。