7月3日、国税庁が発表した2017年分の路線価格(1月1日現在)は、バブルの時代を彷彿とさせた。全国約32万5000地点の標準宅地は、前年比で0.4%のプラスとなり、2年連続で上昇した。32年連続で全国一となった東京・中央区銀座5丁目銀座中央通りの「鳩居堂」前は、1平方メートル当たりの価格が4032万円。過去最高だったバブル崩壊直後(1992年)の3650万円を上回った。
銀座の地価上昇は、松坂屋銀座跡に再開発した商業施設「GINZA SIX」や、東急プラザ銀座などのオープンに加え、訪日外国人客の増加によるホテル需要や消費の高まりなどが背景にあるとされる。だが、これだけ地価が上昇していても、「不動産バブル」を懸念する声はまったく聞こえてこない。
都道府県庁所在地の最高路線価上昇率ランキングによると、都市部では地価の上昇率が2ケタに達した。鳩居堂前は前年比で実に26.0%増だ。京都市下京区四条通寺町東入町2丁目御旅町四条通は20.6%増。札幌市中央区北5条西3丁目札幌停車場線通りは17.9%増だった。
以下、大阪市北区角田町御堂筋(15.7%増)、横浜市西区南幸1丁目横浜駅西口バスターミナル前通り(15.7%増)、金沢市堀川新町金沢駅東広場通(14.9%増)、神戸市中央区三宮町1丁目三宮センター街(14.3%増)、仙台市青葉区中央1丁目青葉通り(14.1%増)、福岡市中央区天神2丁目渡辺通り(12.5%)、広島市中区胡町相生通り(11.3%増)と続く。地価上昇が大都市から地方の中核都市に広がっていることがわかる。
路線価の上昇に敏感に反応したのが、不動産投資信託(REIT)市場だ。総合的な値動きを示す東証リート指数は値下がりが続いた。7月14日の東京市場で前日比24.18ポイント(1.47%)安い1620.38となった。15年9月中旬以来、1年10カ月ぶりの安値をつけた。
REIT指数の下落の背景にあるのは、不動産市況の過熱に対する警戒感だ。鳩居堂前の路線価格が過去最高だったバブル直後の水準を上回ったことで、「経済成長を伴った地価の上昇ではなく、バブルの様相を呈してきた」と判断する投資家が増えてきたといえるだろう。
鳩居堂前の路線価が不動産バブルのバロメーター
鳩居堂前の路線価の推移を見れば、不動産バブルかどうかは一目瞭然だ。
鳩居堂前の1平方メートル当たりの路線価格は、1992年に3650万円のピークに達した。バブルが完全に崩壊した97年には、その3分の1以下の1136万円まで下がった。この額は、2017年の都道府県庁所在地の最高路線価ランキングに照らせば、15位に相当する。
鳩居堂前の路線価が上昇するのは14年からだ。12年と13年は2152万円と横這いだった。ちなみに、2152万円を17年の最高路線価ランキングに照らすと12位にとどまる。17年の路線価がいかに異常であるかを示している。
14年からは、右肩上がりの上昇を辿る。同年は前年比9.7%増の2360万円、15年が同14.2%増の2696万円、16年が同18.7%増の3200万円。そして17年が同26.0%増の4032万円と、バブル超えを果たした。13年と比べて4年間に1.8倍に高騰したことになる。これを不動産バブルと言わずして、なんと言うべきか。
では、地価を押し上げた要因は何か。それはチャイナーマネーだ。北京オリンピック前の中国の不動産バブル崩壊と、上海証券市場の崩落という2度の危機を乗り切った中国の新興成金は、日本の不動産市場をターゲットにした。
13年9月、20年・東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定した。中国の新興成金たちは、これをボロ儲けのチャンスと捉え、東京湾岸エリアの超豪華マンションを次々と買い漁った。もちろん、居住用ではない。
湾岸エリアのタワーマンションの“爆買い”は、13年から14年に集中した。日本の税制では、不動産を購入後5年以内に売却すると売却益の35%という高額な税金がかかるが、5年以上経過すると税率は21%に減額される。14ポイントも税金に差が出る。
彼らが考えている売り時は、購入から5年後である18年後半から19年前半にやってくる。地価はバブル超えの水準に暴騰した。あとは売るタイミングを間違えなければ大儲けできる。
一方で、中国の新興成金たちが、“爆買い”した湾岸エリアのタワーマンションを売却するのを引き金に“チャイナ”バブルの崩壊が始まる。不動産バブルは、東京オリンピック・パラリンピックを待たずに破裂する可能性が高い。
(文=編集部)