昨年10月15日、菅義偉首相は川辺健太郎Zホールディングス社長、高島宏平オイシックス・ラ・大地社長らと会食した。菅首相と高島氏を結び付けたのはデジタル庁である。デジタル庁は自民党総裁選に立候補した菅氏が創設の意向を表明し、にわかに注目された。
経済同友会は昨年9月10日、次期政権の課題を議論する夏季セミナーを都内で開いた。参加者はおよそ40人。この席でコロナ感染拡大で取り組みの遅れがクローズアップされた官民のデジタル化の推進に向け、デジタル庁の設置を期待する声が相次いだ。生鮮食品宅配大手オイシックス・ラ・大地の高島社長は、デジタル庁はデジタル化推進の「中核になる」と評価した。出席者からはデータの「見える化」で政府の政策効果が検証しやすくなるとの意見も出た。
政府は今年9月1日にデジタル化推進の司令塔と期待されるデジタル庁を発足させる方針だ。菅首相の指導力が試される「デジタル庁元年」が幕を開ける。デジタル化の流れに呼応するかたちで経済同友会は2020年12月18日、新任の副代表幹事に高島氏を充てる人事を内定した。4月27日の通常総会で正式に決定する。ITの活用を通じてビジネスモデルや組織を変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進者として、政府に提言する役割を担う。
コロナ禍を乗り切り、一躍、時の人に
高島氏は20年を「食品のネット通販元年」と定義した。ネットで食品を日常的に買う人が増え、外食、内食といった枠組みが曖昧になったことから、大きなチャンスが生まれた。
日本経済新聞社は11月5日、「スーツ・オブ・イヤー2020」の授賞式を特設サイトから配信した。「チャレンジを纏(まと)う=スーツ」をコンセプトに「挑戦し続ける人」に賞を贈るという触れ込みだ。ビジネス部門で高島氏ら5人が受賞した。高島氏は受賞の弁で「創業の頃生産者に覚えてもらおうとスーツで畑に行った。スーツは日々の挑戦を遂行するための服だった」と、体験談を披露した。
日本IR協議会は11月19日、20年度のIR(投資家向け広報)優良企業14社を発表。新興企業や中堅中小企業が対象となる奨励賞はオイシックスが初受賞した。英文での情報開示などフェア・ディスクロージャー(投資家に対する公平な情報開示)の姿勢やITやDXに関する消費者との対話が高く評価された。
消費者庁が12月18日に行った「消費者志向経営優良事例表彰」でオイシックスは消費者庁長官表彰(特別枠)を受賞した。「コロナ禍において、消費者視点で食材の宅配を進化させている点」が認められた。成功例がないといわれた「食品のネット販売」の分野で、ビジネスを軌道に乗せたことが、各方面から賞讃されたことになる。
高島氏は1973年、神奈川県生まれ。98年、東京大学大学院工学系研究科情報工学を修了後、マッキンゼーに入社。2000年、インターネットで食材を一般家庭に宅配するオイシックスを設立した。会社が軌道に乗るまで12年かかった。ようやくリピーターの客がつきはじめ13年3月、東証マザーズに上場。17年10月、有機野菜栽培のパイオニアである大地を守る会と経営統合。18年1月、NTTドコモと資本業務提携。同年10月、ドコモの完全子会社で有機・低農薬野菜を販売する、らでぃっしゅぼーやと合併し、18年7月に商号変更した後、合併になった。
レシピと食材がセットとなったミールキットがヒット
外出自粛で家庭で調理する機会が増えた。“巣ごもり需要”を追い風にオイシックスは自然派食品の宅配最大手へと駆け上がっていった。21年3月期上半期(20年4~9月)の連結決算は売上高が前年同期比46%増の475億円、営業利益は4.4倍の39億円、純利益は6.3倍の24億円。大幅な増収増益を達成した。
オイシックスの会員向け宅配サービス、ミールキットが業績を牽引した。全国約4000の契約農家から集めた野菜と、その献立に必要な分だけの調味料のセットである。家族の人数に合わせ、最適な数量を定期的にそれぞれの家庭に届ける。ミールキットのひと包で主菜と副菜の2品が20分程度でつくれるように工夫されている。
価格は2人前で1000~1500円前後が多い。ミールキットの定期会員数は20年9月末時点で18.5万人と前年同月に比べて38%増え、販売数量は830万食から1167万食に4割伸長した。目玉のキットのラインアップの強化のため、モスバーガーや大戸屋など外食チェーンとコラボレーションも行った。モスバーガーのミートソースを使ったボロネーゼ、大戸屋の人気メニューの鶏と野菜の黒酢あんのキットはどちらも即日完売するほどの人気を博した。
下期からはウォルト・ディズニーと組んで子ども向けミールキットを販売する。その第1弾はディズニーの人気キャラクター、ミッキーとミニーをかたどった豆腐チキンバーグに野菜を使ったソースを合わせたミッキー&ミニー野菜たっぷりハンバーグで、昨年11月12日から販売を開始した。
上期の好業績を背景に、21年3月期通期の業績予想を上方修正した。売上高は900億円(当初予想は780億円)、営業利益50億円(同30億円)へ引き上げた。東海東京調査センター(東海東京フィナンシャル・ホールディングス、東海東京証券)は売上高943億円(前期比32.8%増)、営業利益65億5000万円(同2.65倍)と予想。会社見通しを大きく上回り、目標株価を4400円(1月4日は一時、前日比245円高の3370円)とした。1都3県での緊急事態宣言の再発令を見据えて、株価が動意づいた。1月8日には一時、3425円まで上伸した。
高島氏には「ミールキットの知名度はまだまだ低い」との思いがある。「医療など食以外の会社と協業し、オンリーワンの食(食事)を追求したい」と意気込む。
(文=編集部)