ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 「青汁」のキューサイ、急成長と転落
NEW

「青汁」のキューサイ、急成長と転落…相次ぐ品質トラブル、ユーグレナに飲み込まれる

文=編集部
【この記事のキーワード】, ,
「青汁」のキューサイ、急成長と転落…相次ぐ品質トラブル、ユーグレナに飲み込まれるの画像1
「Getty Images」より

 ミドリムシが青汁を買収――。どちらも緑色。相性はいいのだろうか。

 ミドリムシを活用した機能性食品・化粧品を展開するユーグレナ(東証1部上場)が、ケール青汁などで知られる健康食品通販のキューサイ(福岡市、非上場)を買収し、連結子会社にする方針だ。投資ファンドのアドバンテッジパートナーズ(AP)、リース大手の東京センチュリーとユーグレナの3社共同出資で特別目的会社(SPC)を設立。全キューサイ株をもつコカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス(CCBJH、東証1部)から21年1月末をメドに保有株を買い取る。買収額は明らかにしていないが、400億円程度とみられている。

 キューサイ株の“受け皿”となるSPCには、APが157億円(出資比率は約67%)、東京センチュリーが47億円(約20%)出資して主導権を握る。ユーグレナは当初30億円(約13%)にとどまるが、1年以内にSPCへの出資比率を最大49%まで高めるとしている。APと東京センチュリーからユーグレナが買い取る株式の総額は102億円。最終的にユーグレナは132億円を投下することになる。出資分は銀行からの借り入れが主体となりそうだ。

ミドリムシを使ったジェット燃料の開発を目指す

 ユーグレナの出雲充社長は東大発のベンチャー起業家。1998年、バングラデシュに渡航した折に「栄養失調に悩む住民を目の当たりしたのが起業のきっかけ」と話す。当時18歳で東京大学の1年生だった出雲氏は農学部でバイオ技術を学び、2005年、ミドリムシを使った健康食品の製造・販売会社を設立した。

 ミドリムシの大量培養技術に強みを持ち、健康食品の素材として製薬会社などにミドリムシを販売している。12年、東証マザーズに上場(14年に東証1部に昇格)した。20年5月、出雲氏は経団連の審議員会副議長に40歳という歴代最年少で就任した。

 財界のお墨付きを得て、若手ベンチャー起業家の代表格となったが、本業の業績は振るわない。20年9月期の連結決算は売上高が前期比5%減の133億円、営業損益は18億円の赤字(前期は74億円の赤字)、最終損益は14億円の赤字(同97億円の赤字)だった。赤字幅は縮小しているが3期連続で赤字が続く。経団連の審議員会副議長に就いた時には、「黒字転換を最優先すべきで、財界活動は10年早い」と市場関係者から厳しい声が上がった。

 市場が期待しているのはミドリムシを使ったバイオ燃料の製造である。ジェット燃料を実用化する資金を得るというのが株式上場の目的だった。売上の内訳としては、食品・化粧品などのヘルスケア事業が129億円で96%を占める。バイオ燃料の開発は実証段階で、2025年に商業プラントを建設する計画だ。世界的な脱炭素の流れのなかで将来性は見込めるものの、膨大な研究開発資金を捻出する必要がある。

 そこで打ち出したのがキューサイの買収だ。青汁を軸にコラーゲンの健康食品やケールを使った化粧品の販売を主体とする知名度の高い通販企業だ。19年12月期の売り上げは249億円、営業利益は27億円、純利益は13億円。37万人のユーザーを抱える。新型コロナウイルスの感染拡大の影響は限定的で業績は順調だ。

 ユーグレナにとっては過去最大のM&A案件である。「小が大を飲み込む買収」の成否が問われる。

CMで青汁は全国区に

「まずい! もう1杯!」。悪役俳優の八名信夫さんがグラスの鮮やかな緑色の液体を一気に飲み干し、顔をしかめ、しゃがれ声でこう言うCMが強烈な印象を与え、青汁の大ブームを巻き起こした。1990年のことだった。

 創業者は長谷川常雄氏。京都市出身。同志社大学経済学部卒。大沢商会に入社し、福岡支店に勤務していた時に独立。63年、菓子製造販売会社の長老製菓(のちの長谷川製菓)を創業し、ニチレイの協力工場として冷凍食品を製造していた。

 長谷川氏本人が体調不良の際にケールを搾った青汁を飲んで効果を実感したことから、82年、ケールを原料とする冷凍タイプの青汁の製造販売を始めた。だが、独特の苦みがあり、売れ行きは芳しくなかった。

 95年、キューサイに商号変更。97年、株式を店頭公開した。青汁を表看板に増収増益を続け、99年9月、東証2部と福岡証券取引所に上場した。急成長の裏側で青汁の品質に関するトラブルが起きた。2000年6月、「ケール100%」をうたいながら原料にキャベツを使用していたことが発覚した。前年に熊本県に上陸した台風の影響を受けたケール畑が大きな被害を受け、生産を委託している農事組合法人が深刻な原料不足に陥ったのが直接の原因。消費者に断りなく原料にキャベツを加えていた。公正取引委員会から排除命令を受けた。急成長を続けていたキューサイの信用はガタ落ちとなった。

 創業者の長谷川氏はキューサイを売却する。06年12月、大和証券グループ本社と三井住友銀行が共同出資していた投資ファンド、エヌ・アイ・エフ食品スーパーBCベンチャーズ(現・SMBCベンチャーキャピタル)の関連投資会社に全株式を売却した。07年3月、キューサイは上場廃止となった。創業者一族は400億円あまりのキャッシュを手にした。長谷川氏や家族はロンドンに生活拠点を移した。英国への移住は相続税対策といわれた。晩年になって長谷川氏は望郷の念が強まったためか、日本に帰国。19年4月、85歳で亡くなった。

コカ・コーラは360億円で買収したキューサイを400億円で売る

 キューサイを買収した投資会社は10年3月、全株式を九州が営業地盤のコカ・コーラウエストに約360億円で売却した。キューサイの買収にはコカ・コーラの米本社が反対していた。ウエストは飲料事業が苦戦しており、利益率の高いキューサイの売り上げを取り込もうとした。しかし、不特定多数を相手にする清涼飲料メーカーと特定顧客に商品を売り込む健康食品メーカーでは、商品の開発や販売の手法がまったく違う。「健康面での効能をうたう商品はリスクがつきもの」というのがコカ・コーラの米本社の反対の理由だった。

 実際、17年、キューサイ子会社の日本サプリメントが許可条件を満たしていない商品を特定保健用食品(トクホ)として販売。「景品表示法違反(優良誤認)にあたる」として消費者庁から課徴金の納付の命令を受けた。

 17年、コカ・コーラウエストとコカ・コーライーストジャパンが経営統合し、コカ・コーラ ボトラーズジャパンが誕生。これを機に米本社の圧力が強まった。キューサイを買収した当時の経営陣の影響力も薄れ、必然的に売却の流れが早まった。キューサイの売却では国内外の複数の投資ファンドが入札に参加した。地元では佐賀県鳥栖市に本社がある、貼り薬・サロンパスで知られる久光製薬が“受け皿”になることへの期待があった。

 競り落としたのはユーグレナ、AP、東京センチュリー連合。決め手は買収価格。400億円と最も高かった。創業者が手放した青汁のキューサイは、投資ファンド、コカ・コーラを経て、ユーグレナに渡った。

 ユーグレナの業績は水面下の動きが続く。そうしたなかでのキューサイの子会社化の動きを市場(マーケット)はどう評価するのだろうか。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

Business Journal

企業・業界・経済・IT・社会・政治・マネー・ヘルスライフ・キャリア・エンタメなど、さまざまな情報を独自の切り口で発信するニュースサイト

Twitter: @biz_journal

Facebook: @biz.journal.cyzo

Instagram: @businessjournal3

ニュースサイト「Business Journal」

「青汁」のキューサイ、急成長と転落…相次ぐ品質トラブル、ユーグレナに飲み込まれるのページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!