11月25日付「日経MJ」(日本経済新聞社)1面の見出し“Jフロント「百貨店ごっこ」やめた”は、筆者にとっては衝撃的なものだった。現在、苦境に陥っている百貨店の今後の再生を検討する際、マーチャンダイジングやサービス改善といったレベルではなく、抜本的なビジネスモデルの再構築が必要になると常々考えており、こうした筆者の問題意識がまさに凝縮された一言であると強く共感したからである。
もちろん、百貨店の優れている点は多々挙げることができるが、再生に向けての第一歩として自らを否定的に見つめ直すことは重要なポイントであり、トップのこうした発言は組織全体に良い意味での刺激を与えることだろう。
そもそも小売業者は、生産者もしくは卸売業者(問屋)から商品を仕入れ、消費者に販売する。通常の「買い取り仕入れ」の場合、商品の所有権は当然のことながら、生産者もしくは卸売業者から小売業者へ移転する。
しかし、日本の百貨店の仕入れでは、「消化仕入れ」という手法が一般的である。消化仕入れでは、仕入れの段階では所有権は移転せず、百貨店が販売を完了した時点で初めて仕入れたことになる。消化仕入れには、在庫リスクを抑えながら多くの商品を店頭に並べることができるというメリットがある一方で、販売利益率は買い取り仕入れよりも低く、また価格設定における自由度などが制限される。こうしたことから、「百貨店は場所貸ししているだけ」と、しばしば指摘されてきた。
実態は不動産業といってもよいほどの状況で、商品ごとにバイヤーやマネジャーを置いてきたことに対してJ.フロントリテイリング(Jフロント)の奥田務元会長は「百貨店ごっこ」と自己批判してきたとのこと。
Jフロント系列の大丸心斎橋店では、これまでの百貨店のビジネスモデルを転換する試みが見られる。まず、Jフロント系列の大丸や松坂屋の一般的な店舗のテナント比率は20%程度であるが、大丸心斎橋店は65%にまで高めている。これにより、店舗運営に携わる従業員の200強のポストを削減し、ローコストオペレーションを実現している。つまり、より不動産業に近づく決断を下しているのだ。
さらに、完全子会社化したパルコを誘致し、若者の集客にも注力している。パルコのスペースにはポップカルチャーのフロアーがあり、また現代アートの絵画展なども開催されている。百貨店はもともと文化の発信といった役割も担ってきたが、そうしたことを現代風にアレンジした取り組みと捉えることもできるだろう。
三越伊勢丹はネット販売に注力
Jフロントがこれまでのビジネスモデルを根本的に変革しようとする一方、三越伊勢丹ホールディングス(HD)の伊勢丹新宿本店では、全商品をネット上で接客を通じて販売するという試みを行おうとしている。現在はアパレル、時計・宝飾品などに限定されているが、来年度にかけて家具や食品など全分野に拡大させる予定だ。
もちろん、ネット通販の世界には、アマゾンや楽天など圧倒的な力を持つ企業が存在するが、実店舗の店員がチャットや動画を駆使して接客することにより、差別化を図るという。
ITリテラシーに長けた消費者は自ら主体的に情報収集を行い、そうでない顧客は店員のアドバイスに大きく依存するといった前提を正とするならば、ネットによる接客に関してターゲット顧客との若干のミスマッチを感じなくもないが、運営におけるさまざまな工夫により、うまくビジネスが進行していく可能性も少なくはないだろう。
小売業は「社会適応業」とも呼ばれる。世界大恐慌の際には安売りを強く訴求したスーパーマーケットという業態が現れ、利便性を重視する消費者が多い現代の日本においては、コンビニが広く普及している。
こうしたなか、百貨店は長い歴史を持つがゆえに、その分、余計に現代社会とのギャップが大きくなっているとも考えられ、抜本的な改革が強く求められている。三越伊勢丹HDやJフロントの事例は、それぞれ方向性はまったく異なるが、いずれにせよ“座して死を待つよりは、出でて活路を見いださん”といった意気込みを感じさせてくれる。
(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)