トリレンマに陥っている東芝
東証2部に降格した東芝が8月10日、監査法人の「限定つき適正」を得て、2017年3月期の決算を報告した。それによれば、16年度は売上高が4兆8708億円、営業利益が2708億円の黒字、最終純損益が9657億円の赤字だった。そして、17年3月末時点での債務超過額は5529億円に確定した。
この債務超過を18年3月末までに解消するために、東芝メモリを2兆円で売却しようとしているが、極めて困難な状況に直面している(表1)。
東芝の取締役会が6月21日に優先交渉権を与えた産業革新機構を中心とする「日米韓連合」は当初、融資だけをするはずだった韓国SK hynixが転換社債を要求し、将来の議決権を求めてきた。その結果、9カ月は時間がかかるといわれる独占禁止法の審査の対象となった上に、東芝とNANDフラッシュメモリを共同生産している米ウエスタンデジタル(WD)が猛反対している。
WDには米ファンドのKKRが出資協力する模様だが、「東芝メモリ事業の分社化も売却も契約違反」と主張して、東芝と3件の裁判を闘っている(図1)。
そのうち、7月28日に行われた米カリフォルニア州上級裁判所における2回目の審理では、「東芝メモリの売却差し止め」の仮処分の判決が出るかどうかに注目が集まっていたが、実際の判決は、「東芝に対し売却完了の2週間前までにWDに通知するよう命令する」という中途半端な内容だった。米裁判所は売却差し止めに関する判断を避け、1~2カ月後にパリで行われる国際仲裁裁判所に下駄を預けたのかもしれない。
この国際仲裁裁判所で判決が出るまでには数年以上を要するため、WDに売却すべきとの見解も聞こえてくる。しかし、WDはNANDの同業他社となるため、SK hynixと同様に独禁法の審査が必要となり、それには最低9カ月かかる。
唯一、独禁法に抵触しない台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)の陣営は、日本政府が持ち出してきた外為法に違反する。したがって、日本政府が首を縦に振らない限り、買収することができない。そして、シャープの買収をめぐって煮え湯を飲まされ、恨みを抱いている経済産業省が、面子にかけて買収を許すことはなさそうだ。
要するに、東芝は、東芝メモリを18年3月末までに売却して債務超過を回避したいが、その買収候補者は、いずれも問題を抱えており、スムーズに売却できないのである。東芝は3陣営のどこにも売ることができず、にっちもさっちもいかない「トリレンマ」状態に陥っており、上場廃止までの時間は刻一刻と迫りつつある。