自動車メーカーによるレストアビジネス活況…今こそもっと「普通」の旧車を現代に!
新年1回目ということで、今回は少し明るい話題を。
昨年12月4日、日産車をベースとしたモータースポーツ車両やパーツの開発を行うNISMOは、スカイラインGT-R(R32・33・34型)のレストアビジネスとして、「NISMO restored car」を発表した。同社は、2017年から一部純正部品の復刻として「NISMOヘリテージ」を実施していたが、これを発展させたかたちである。
その内容は単なる「修理」にとどまらず、車体の骨格から各機関部品、内外装に至るまで徹底した再生が行われ、新車当時に匹敵するクオリティを標榜するビジネスだという。
最近、こうした動きは他メーカーでもみられ、たとえばマツダは初代のNA型ロードスターのレストアプロジェクトを17年から開始したし、ホンダは同年からビートの純正補修パーツの再販を開始、昨年トヨタ自動車も初代・2代目スープラのパーツ復刻を発表した。
そもそも、こうした動きは近年の「旧車」ブームに後押しされたものと思われ、おもに1980年代の個性的な日本車が見直されている風潮に、いよいよメーカーも重い腰を上げたと。言い方を変えれば、商売になると判断したわけである。
僕も基本的には賛成というか、実は20年近く前に「リフレッシュカーのすすめ」として、この80年代を中心とした旧車のレストア車販売の提案記事を何本か書いたことがある。その肝は、まさにメーカー自身による作業と販売という点だ。
実際には、当時も旧車のレストア自体は特段珍しくなかったものの、あくまでも個人が行うもので、その内容はピンキリ。もちろん、一部のマニアはそれでいいとしても、よりユーザー層を広げた「新規事業」とするなら、メーカー自身による作業は強い説得力を持つはずである。
ところが、当時メーカーにこの話をしてもほとんど相手にされなかった。すなわち、自社の旧いクルマを売ったところで、新車販売に対して何のメリットもないじゃないか、という理屈。結局、メーカー系中古車販売店でなんとか取材ができたものの、それでも積極的な話は聞けなかった。
過去の自社商品を振り返るのは「自動車文化」の入り口
それから約20年、ようやく状況が変わってきたわけだが、実は僕が当時提案した「リフレッシュカー」と現状は少々異なる。それは、たとえば先のGT-Rやロードスターなど、いわゆるマニア向けの高性能車やスポーティカーに限定するのではなく、もっと「普通の」旧車を扱うというもの。
たとえば、日産なら初代のマーチや6代目のトラッドサニー、初代プリメーラ、S13型シルビアやGT人気の7代目セドリック、Be-1などのパイクカーシリーズ。トヨタは80系カローラやクリスタルピラーの5代目マークⅡ、7代目の「いつかはクラウン」に初代ソアラ。ホンダでは初代のシティやCR-X、3代目のワンダーシビックにリトラクタブルランプのCA型アコードなどなど――。
つまり、当時ごく普通に売られていた旧車たちである。こうしたクルマは、仮に今町の中古車店に並んでいても、一般のユーザーが気楽に買うには勇気がいる。けれども、もしメーカーがレストアを施し、責任を持った販売を行えば話は別だ。
もちろん、多くの車種を手掛けるには手間暇が掛かり価格も相応となる。けれども、当時のクルマが新車に近いクオリティで買えるとなれば、それこそ当時の新車価格であっても、手に入れたいと思うユーザーは少なくないと僕は思う。さらに、愛車の持ち込みも可能とすれば尚更だ。
また、多くの車種を扱うといっても、各車種の残存数は限られているから、たとえば環境負荷云々の話とはならないだろうし、それこそ新車販売に影響を与えるようなこともない。逆に、当時の魅力的なクルマを再生させることで、メーカーのブランドイメージを高める効果のほうが高いのではないか? 早い話、いい宣伝になると。
あれから20年が経過し、ベース車も大幅に減ってしまっただろうから、実際に事業にするなら90年代車までを対象にすると現実的かもしれない。今や、旧車のイベントでも90年代のクルマは珍しくなくなった。
以前、トヨタ博物館の担当者から「今、なぜ若者が80年代のクルマに興味を持つのかを研究していて、新車開発の参考にしたい」という話を聞いたことがある。メーカーが過去の自社商品を振り返るのは「自動車文化」の入り口であり、ようやく日本車メーカーもスタート地点に立ったわけだ。
だからこそ、一部のマニアだけを対象にするのではなく、より多くのユーザーが楽しめるビジネスにしてほしいと思うのである。
(文=すぎもと たかよし/サラリーマン自動車ライター)