マツダが「年次改良」のシステムを採用してから久しい。
一般的に高費用とされるモデルチェンジは、定期的に行われてきた。フルモデルチェンジは4年周期、マイナーチェンジはその間の2年ごと。古くは、そんな周期でモデルの刷新、改良、あるいは入れ替えされるのが慣習だった。
それが崩れ始めたのは、10年程前だったと思う。改良の必要がなければ、さらに周期を延長する場合もあり、あるいは日産自動車の多くのモデルがそうであったように、10年間もフルモデルチェンジを行わず、ひたすら延命措置を続けることも珍しくなくなった。
だが一方で、技術は絶え間なく進化している。それに合わせて、クルマも新技術が投入される。日々改良はされている。それをマツダは公表することにした。それを年次改良という。始まったのは数年前のことである。
それは瞬く間に他のメーカーに伝播し、「年次改良モデル」として進化の過程を公表するメーカーも今では少なくない。
今回、ミドルSUVである「CX-5」が、2020年モデルとして年次改良を受けた。すでに世界で300万台をセールスしたヒット作であり、マツダのグローバル販売の4分の1を占める基幹モデルである。鮮度を保つ意味でも無視できない年次改良を敢行したのは当然であろう。
といっても、大胆な変更はない。エクステリアデザインはほとんど変わっていないし、インテリアの意匠変更もそれほどない。センターディスプレイが9インチから10.25インチに拡大し、車載通信機能の精度を高め、コネクティッドサービスを充実させている程度だ。時代の流れに合わせた装備の充実は大歓迎であるものの、劇的な変更とは言いがたい。
ただし、ドライブしてみると、公表されている変更要件を超えて、走りの印象が異なる。最大の変更は、エンジンの充実だろう。「スカイアクティブD2.2」と呼ばれるティーゼルエンジンは、最高出力が190psから200psに強化された。直列4気筒2.2リッターディーゼターボの特性に手を加えたのだ。
数値以上の力強さとして伝わってきた。低回転域のトルクに変更はない。むしろ力強いのは中回転域であり、たとえば高速道路の流入や登坂車線の追い越しなどで、パワーアップの恩恵を感じた。それでも驚かされたのは、ドライバビリティである。
エンジンの出力特性から想像する以上に発進・加速が鋭く感じられたのは、スロットルペダルのレイアウトを変えたことによるという。たかがアクセルペダル、されどアクセルペダル。エンジンコントロールのタクトであるアクセルペダルのストロークを微調整することで、まるでエンジン特性を細工したかのように走りが力強く感じられたのは驚きだった。
同時に、オートマチックの適正化にも挑んだ。ドライバーが素早い加速を期待したことをセンサーすると、ミッションの反応を整えてくれるのだ。地味で目立たない改良ではあるが、アクセルペダルの改良という些細な進化が、これほどまで走りを変えるのだと再確認したのである。
マツダの年次改良に、真摯な姿勢を感じた。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)