しかし、安倍政権に交代するや、新藤義孝総務相は「今国会に(オークション導入の)法案を提出することはない」と言明し、電波オークションを葬り去ってしまった。
現在は総務省が裁量で放送局や通信事業者に電波を割り当てて電波利用料を取っているが、これから利用が進む第4世代携帯電話向け電波などを入札にかければ、数千億円の収入になるとみられていた。また、民主党政権下で電波オークション導入を提言した大阪大学の鬼木甫名誉教授によれば、現在テレビが占拠している帯域も含めてすべてをオークションにかけたとすれば、30兆円近くの価値があるとのこと。安倍政権は国庫に入るはずだった数千億円に上るオークション収入をフイにしてまで、テレビ局などによるタダ同然の電波使用という利権を維持させることにしたのである。安倍政権がオークションを取りやめた理由として、「大メディアに恩を売りたかった」との見方もあるが、真相はわからない。
放送局と通信事業者にすれば、オークションが導入されれば外資など新規業者がライバルとして参入し、新たな脅威になっただろう。それに対抗するには、現在支払っている電波料に加えて、オークションで競り勝つ高額な費用が必要になったはずだ。特にテレビ局は、なんとしてもオークションを阻止したかったはずだ。
総務省も実は、本音ではオークションをやりたくなかったと言われている。電波利用料は税金ではないため、財務省による再分配の対象とはならず、形の上では一般会計の総務省予算になっている。ただ、電波法によって使い道が決められている特定財源であり、全額が総務省によって使われる。総務省の「隠れ特別会計」との指摘もあり、総務省が自分たちの裁量で使える予算なのである。もし、オークションが導入されていたら、総務省はこの貯金箱を失い、財源を財務省に取られていたとの声もある。
先ほど、電波利用料の使途内訳で「研究開発:18%」と書いたが、これなどは天下り先である特殊法人へのばらまきとの指摘もある。これまでのように電波利用料を握っておくことが、総務省にとってもおいしい話なのだ。