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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

緊急事態宣言の延長、失業者15.9万人発生との試算…年間GDP、3.0兆円損失か

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト
緊急事態宣言の延長、失業者15.9万人発生との試算…年間GDP、3.0兆円損失かの画像1
「首相官邸 HP」より

はじめに

 首都圏で新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、政府は2月7日に期限を迎える緊急事態宣言について、3月7日まで延長する方向で調整に入った。政府は今週、諮問会議を開き、専門家の意見を聞いた上で延長する地域や機関について最終決定する方針となっており、感染状況が改善している栃木を除く10都府県での延長が予想されている。

 こうした新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言は、外出制限や交通規制に対して強制力がなく、海外で行われているロックダウンを実施することにはならない。しかし、昨年4-5月にかけての発出により2020年4-6月期のGDPが過去最大の落ち込みを示したことからすれば、経済活動自粛の動きが続くことは確実だろう。

3月7日まで延長でGDP▲3.0兆円

 前回の緊急事態宣言発動に伴う外出自粛強化により、最も影響を受けたのが個人消費であり、実際に2020年4-6月期の家計消費(除く帰属家賃)は前期比で▲7.0兆円、前年比で▲8.3兆円落ち込んでいる。

 そこで、緊急事態宣言延長の影響を試算すべく、直近2020年7-9月期の家計調査(全世帯)を基に、外出自粛強化で大きく支出が減る不要不急の費目を抽出すると、外食、設備修繕・維持、家具・家事用品、被服及び履物、交通、教養娯楽、その他の消費支出となり、支出全体の約51.7%を占めることになる。

 また、直近2017年の県民経済計算を基に、10都府県の家計消費の割合を算出すると、57.8%となる。しかし、今回の緊急事態宣言は、前回のような休業要請がないことや国民のコロナ慣れなどにより、経済活動自粛の動きは前回ほど強くない。実際、首都圏における1月9~11日の3連休の日中の人出のデータを見ても、昨年12月から▲5~38%しか減っておらず、昨年の宣言時との比較では約2.1~2.7倍となっている(Agoop調べ)。

 そこで、不要不急消費の割合を基に、仮に営業時間短縮を中心とする緊急事態宣言の発出により10都府県の不要不急消費が3月7日まで止まると仮定すると、2020年7-9月期の家計消費(約57.5兆円)を基準とすれば、2月7日までの最大▲1.8兆円に▲1.7兆円が加わり、計▲3.6兆円の家計消費が減る計算になる。

 しかし、家計消費には輸入品も含まれていることからすれば、そのまま家計消費の減少がGDPの減少にはつながらない。事実、最新となる総務省の2015年版産業連関表によれば、民間消費が1単位増加したときに粗付加価値がどれだけ誘発されるかを示す付加価値誘発係数は約0.86となっている。そこで、この付加価値誘発係数に基づけば、GDPベースでは2月7日までの最大▲1.5兆円に▲1.5兆円が加わり、計▲3.0兆円(年間GDP比▲0.5%)の損失が生じる計算になる。

 また、近年のGDPと失業者数との関係に基づけば、実質GDPが1兆円減ると2四半期後の失業者数が+5.2万人以上増える関係がある。従って、この関係に基づけば、10都府県で緊急事態宣言が延長されることにより、何も対応が無ければ、2月7日までの+8.1万人に+7.8万人が上乗せされ、半年後に計+15.9万人程度の失業者(失業率+0.3%pt)が発生する計算になる。

特に懸念される女性の就業環境悪化

 こうした中、2020年の就業・雇用者数を見ると、就業者数では男女とも前年から▲24万人の減少となっているが、雇用者数では男性が前年から▲14万人減に対して、女性は同▲17万人減となっている。背景には、コロナショックにより対人関係の希薄化というところに関連する業種で大きく雇用が減ったということがある。

 特に、女性の就業環境の悪化の背景として、主に2つの要因がある。1つ目が、女性の非正規比率が高いことである。非正社員のほうが雇用調整を行いやすいため、より雇用が減少しやすかったと考えられる。実際、コロナ前の2019年時点で非正規雇用比率を男女別に見てみると、男性は2割強に対して女性が55%以上あり、こうした要因も女性雇用が大きく減りやすい背景になっている。

 そして2つ目が、いわゆる非接触化の進展で、サービス関連や卸・小売といった、女性比率が高い職場で雇用が減ったことである。実際、就業者数の男女別変化を業種別に見てみると、コロナショックの第一波が到来した昨年春にかけて宿泊・飲食サービスや生活関連サービス等で女性がかなり減っており、夏にかけては卸・小売のほうで女性の減少が目立ったことがわかる。

 また、昨年夏以降は就業者数が回復傾向にある医療福祉分野でも、昨年春から夏にかけては大きく女性の就業者が減っており、コロナ禍によって人のニーズが強まっていたにもかかわらず、労働市場から女性を中心に退出をしていたことを垣間見ることができる。

 したがって、緊急事態宣言延長となれば、特に女性雇用環境の悪化が深刻になることが推察される。

政策効果実現に必要な政府の自治体監視

 こうしたなか、政府もコロナ禍の女性への影響と課題への対応を進めつつある。例えば、3次補正には、DV、性暴⼒、⾃殺等対策として、新型コロナウイルス感染症セーフティネット強化交付⾦の創設(厚⽣労働省140億円の内数)、配偶者暴⼒被害者等への相談・⽀援の強化(内閣府4.3億円)、性犯罪・性暴⼒被害者等への相談・⽀援体制の強化(内閣府3.4億円)等が盛り込まれている。

 また、エッセンシャルワーカーの処遇改善として、新型コロナウイルス感染症緊急包括⽀援交付⾦(医療、介護、障害福祉、児童福祉)(厚⽣労働省1兆1,763億円)、診療・検査医療機関をはじめとした医療機関等への感染拡⼤防⽌等の⽀援(厚⽣労働省1,071億円)なども盛り込まれた。

 さらに、ひとり親家庭への⽀援として、ひとり親世帯臨時特別給付⾦(厚⽣労働省737億円)が予備費から計上されており、ひとり親家庭等相談体制強化事業(厚⽣労働省4.0億円)、テレワーク対応として、中⼩企業⽣産性⾰命推進事業(特別枠)(経済産業省2,300億円)も3次補正に盛り込まれている。

 一方、人材育成・就労支援として、地域⼥性活躍推進交付⾦(内閣府1.5億円)、⼈材開発⽀援助成⾦による他業種転換⽀援(厚労省10億円)、雇⽤と福祉の連携による離職者への介護分野への就職⽀援(厚⽣労働省)、感染症の影響による離職者を試⾏雇⽤する事業主への助成(トライアル雇⽤助成⾦)(厚⽣労働省)が3次補正に盛り込まれている。

 しかし、いずれの政策も各自治体の対応次第で成果も変わってくることになろう。したがって、政府は予算を配分するだけではなく、各自治体の取り組み状況を厳しくチェックすることが必要になってこよう。

(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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