携帯電話キャリアである楽天モバイルは大手3社の値下げに対抗し、現在のデータ無制限2980円というプランを、「1GBまで無料」「1~3GBは980円」「3~20GBは1980円」「20GB超は2980円」に変更すると発表した。大手3社と比較して1000円ほど安い、驚きの料金プランになっている。記者会見で会長の三木谷浩史氏は「全国民に最適なプランを提供することが楽天モバイルのミッション・心意気だ」と語っている。
しかしながら、こうした値下げをせずとも、楽天モバイルは専用アプリRakuten LINKを用いて通話した場合、通話料は無料であるため、十分に競争力はあるはずだが、なぜ大胆な値下げを実施するのだろう。
大手3社の値下げに関する報道を見ていると、「20GBで2980円」と通信料のことばかりが注目され、通話料はあまり話題になっていなかった。結果、価格における楽天モバイルの優位性は薄れ、今後どうなるのかといった報道が目立った。こうしたイメージを払拭するために、何か新たな施策が求められたという事情もあったかもしれない。
また、携帯電話キャリアの変更は、多くの人にとって「人生の一大事」と言ってもよいほど厄介な問題である。長期使用に伴う割引やポイントの放棄、他のキャリアとの料金比較や変更に伴う煩雑な手続きなど、膨大なスイッチングコストが発生する。さらに、長年使用してきた愛着のほか、多くの人は基本的には保守的といった事情も考えられる。
こうした消費者から注目され、実際に乗り換えてもらうためには、一目でわかる大胆なプランの提示が必須となる。
楽天モバイルの収益化には、まだ時間が必要であろうが、それでもなお先着300万人を対象に実施した1年無料キャンペーンの結果、すでに220万人以上のユーザーを獲得している。楽天モバイルがここまで大胆なプロモーションを展開できている背景には、今なお現役バリバリの創業者であり、強いリーダーシップで会社を引っ張る三木谷氏の存在があると思われる。
たとえば、楽天カードは取扱高が11兆円を超え、会員数は2100万人を突破し、楽天グループに大きな富をもたらしている。今やクレジットカードの入会金・年会費無料は当然の状態となっており、重要なことはユーザーにいかに使ってもらうか、つまりいかにアクティブユーザー化させるかである。しかしながら、多くのクレジットカード会社では、会員数を増やすことには精力を傾けるが、そのあとのフォローが行き届かず、結果、大きな収益に結びついていない場合が少なくない。
一方、楽天カードにおいては、まず楽天市場などで利用可能な5000~8000円程度のポイントが付与され、さらに入会後1カ月の間に、楽天市場ではなくリアルの買い物の場で1回の利用につき100ポイント獲得できる(上限1000ポイントまで)キャンペーンを展開している。
つまり、楽天市場はもちろんのこと、リアルの買い物の場においても楽天カードを利用することをユーザーに習慣化させる試みが見られる。こうした大胆さ、アグレッシブさの源は、やはり創業者のリーダーシップにあるように思われ、豊かな日本社会で変に上品になってしまった多くの企業にとって重要な要素に思われる。
(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)