テレビ朝日が、ジャニーズ事務所の重鎮・少年隊の東山紀之をキャスターに据え、日曜朝の午前5時50分から2時間40分にわたって生放送するニュース情報番組『サンデーLIVE!!』を、10月から放送することを発表して2カ月。
『サンデーLIVE!!』新設に伴い、これまで日曜日の午前7時30分から放送されていた『スーパー戦隊』シリーズと『仮面ライダー』シリーズも、10月からは放送時間を毎週日曜日午前9時から変更することとなった(現在は『ヘボット!』が放送されている日曜日午前7時の名古屋テレビ制作のアニメ枠は、9月いっぱいで約40年の歴史に幕を閉じることに)。
それに先立ってというか、単純に視聴率が振るわなかったためか、昨年10月から放送が開始された『仮面ライダーエグゼイド』は、8月27日の第45話「終わりなきGAME」で最終回を迎えるという異例の事態に。
ネット上を見ると、歴代のライダーシリーズのなかでも、特に攻めたデザインだった『エグゼイド』を揶揄するような声も多いが、そこまでひどい出来だったのか? また通常よりも1カ月早い放送終了で、『エグゼイド』後半の物語に影響は出なかったのか? そして何より、放送時間の変更でチビっ子も大きなお友だちも好きな特撮作品には、どんな変化が起きうるのか?
大きな転換期を迎えそうな特撮界について、ロックバンド「モノブライト」のベースでありながら、「東映特撮ファンクラブ」ではコラムも手掛けるほどの特撮マニアとして活躍中の出口博之氏に、9月3日から放送開始となった新ライダー『仮面ライダービルド』の感想も含めて、いろいろと聞いてみた。
前倒し終了で畳み掛ける展開が加速!スピンオフも制作決定
――『仮面ライダー エグゼイド』が8月27日の第45話をもって放送終了となりました。普段の『ライダー』シリーズだと48~50話くらいなので、3~4話程度短かったわけですが、後半の展開にしわ寄せ、窮屈だなと感じる部分はありましたか?
出口博之(以下、「出口」) いや、思っていた以上に気にならないまま、視聴していましたね。「ここでもうあと2話ぐらいあったらな」とか、「もう少しこの話を引っ張ってほしい」と、不満に感じることはなかったです。そもそも『エグゼイド』が、グイグイと話を引っ張っていく、毎週毎週「続きが気になる!」という物語でしたから。例年よりも5話前後少ないというところが、かえって後半の畳み掛け、勢いにつながったのかなと、そういう印象ですね。率直に面白かったです。今後さらに、“真”エンディングを描く劇場版や、主人公以外のライダーたちを主軸に据えたスピンオフも控えているので期待したいです。
――出口さんは東映のオフィシャルでコラムも書いていますし、クリエーターさんがたともお付き合いがあったりで、いろいろなお話が風に乗って聞こえてくることもあったと思いますが。
出口 たしかに風の噂はちょいちょい耳にしましたが……まず、いち特撮ファンとしてはいろんな作品を小さい頃から見てきていて、何度も「ああ、これは打ち切りなんだな」と感じてしまう作品に出会ってきたわけですよね、特撮に限らず漫画やドラマでも。
いろいろな風の噂を聞きはしますが、その上で終わるタイミングがどこにあるのか、どこでどう終わらせていくのか、その作業を誰が担当するのかというのは結局のところ、作っている制作側の人たちにしか知り得ないことなんだなと思います。ただ、『エグゼイド』について言えば、「この作品は終わりでーす」と、バツンと切られた、中盤・終盤にきてから「もうだめだ、終わりだっ!」と突貫工事だったということはないと思います。
――ちょっと不本意な形だったのかもしれないけど、ちゃんと備える時間は最低限あったであろうと。
出口 ……そうだと思います。また幸か不幸か、『エグゼイド』は謎が一つ出てきて、それが解決すると思いきやまた謎が出てきて、というのを繰り返していた作品で、ドラマの熱量が高くて、視聴者に「あれ? これってどういうこと?」と、一歩引く間を与えない。ドンドンドンと物語が展開していくので、見ているほうはグイグイ飲めり込んで世界に入っていく。その勢いが、「あれ? 例年よりも話数が少ないぞ」という疑問感も打ち消したのではないかなと。
――ただ『エグゼイド』は見ていたファンやチビっ子からは評価が高い一方で、視聴率は近年のライダーと比べて、1~2%は低いなど、苦戦していました。近年のライダーと比べて、俳優さんたちのビジュアルであったり演技力であったり、物語の内容や構成、演出の上手い下手が劣っていたわけでもないんですよね?
出口 いやいや。むしろレベルは高いほうだったと思いますし、出演されていたキャストさんがたは1人1人キャラが立っていて、全員がきちんと自分のキャラクターを120%の演技力で演じられていまして。ギャグ回も面白いし、シリアス回もすごくグッとくる、迫るものがありましたし、引き込む力はかなりレベルが高かったですよ。
――個性際立つ、パっと見のビジュアルのインパクトで、最初に脱落した人もそもそも多かったのではないかっていう話があるんですけど。
出口 ……それはあるかもしれませんが、そのインパクトの強さがオモチャの売り上げにはつながっていると思うので、難しいですよね。オモチャは好調なわけで。それに、どんなにいい作品であっても、見ている人の数字がそれに比例しないというのはあることじゃないですか。
音楽の世界でも、ライブの動員はすごいけど、CDがまったく売れないというケースはありますから。でも音楽にパワーがないというわけではなくて、CDは買わなくてもYouTubeやストリーミングを利用していて、“音楽が好きでよく触れている”という人はむしろ増えているかもしれないぐらいだけどCDは売れないという構造と、特撮とは似ているかもしれないと考えるときもありました。作品として質は良いのに、リアルタイム視聴率につながらないことは、まま、あるんだなと。
シリアスな『ライダー』らしい世界観で好調スタート、1カ月前倒しの影響はこれから?
――放送が始まった新ライダー『仮面ライダービルド』についても、解説をお願いします。
出口 デザインが非常にスマートという印象が強いですね。往年の仮面ライダーっぽさもあって、近年では珍しいタイプのライダー。『エグゼイド』はもちろん、少し前の『仮面ライダーフォーゼ』のロケットを模した頭部のデザインなども、もう放送前から賛否が渦巻いていましたから。
また、そういった「なんだこれかっこ悪い、こんなの仮面ライダーじゃない」という前評判を序盤の1カ月の放送内容で少しずつ払拭していく、動いたら意外と格好いいじゃん! となるのが、最近の慣例というかお約束ではあったんですが、『ビルド』には、そういったムーヴはなかったですね。
――実際序盤の放送を視聴されてみて、いかがでしたか?
出口 最近の作品の中では群を抜いて「つかみ」が上手いという印象を受けました。日本が3つに分断されているという世界設定は放送前から出ていましたが、その情勢はかなりシリアスでハード。その上、昭和シリーズファンにとっては作品の共通言語、いわゆる「仮面ライダーあるあるネタ」とも取れる場面も見られることから、オールドファンにも訴求力がある第1話だったと思います。
あるあるネタのわかりやすい場面のひとつが、半裸の男がどこかから脱走するシチュエーション。長年『仮面ライダー』を見てきたファンにとっては「そう! それだよね!」と反応してしまう場面がいくつか差し込まれていたんですよ。
『エグゼイド』は、従来の仮面ライダーらしさを一新したポップネスなデザイン、テレビゲームを基本コンセプトに据えた世界観の構築。作品の手触りで言えば、カジュアルでポップな仕上がりになっていましたよね。シリアスだからいいというわけではないですが、『仮面ライダービルド』には、仮面ライダーシリーズという作品が持つ本質的な怖さと地続きになっているような感触を覚えました。
――シリアスさに目が行きがちですが、主人公・桐生戦兎(きりゅうせんと)もいいキャラですよね。
出口 彼の良い意味で軽いキャラクター性が作品のバランスをうまくとっていますよね。あとはなんといってもデザインが格好いい! 特に変身シークエンスの、プラモデルのランナーを用いる発想は本当に驚きました。本当の意味での「見たことのない映像」が展開されていて、「特撮が好きでよかったな!」とテレビの前で思ったほどです。
――ちなみに、通常よりも1カ月前倒しで放送開始です。現場は大変だという風の噂を聞いたりしませんか?
出口 ああ、現場は大変だという風の噂はまことしやかにささやかれていますね、ネット上とかでも(笑)。単純に早まったというのももちろん、たとえば、放送が始まって1~2カ月経って、視聴者がドラマやキャラクターになじんできたところで、新しい武器や乗り物が登場します。10月からの放送開始だと、それがちょうどクリスマス商戦のタイミングに合うようになっていたりと、ライダーに限らず特撮はそういったタイミングを毎年しっかり計ってきていたんです、例年は。もちろん冬休みだ夏休みだと、番組内に季節ネタを盛り込んでいくケースもありますから、1カ月もずれるとなるとかなりつらいですよね。
――1年の中で、ここでクリスマス、ここで劇場版があって、ここが折り返し地点などと節目があったわけですね。
出口 そうなんですよ。例年であれば10月1週目から新ライダーが始まり、2カ月後にクリスマス。15話前後にある程度のアイテムが出そろわなければいけないんですが、今年だと、だいたい20話前後でクリスマスを迎えます。20話と言うと、例年だと中ボスみたいなのがどんどん出てくる時期なんですよ。
――中ボスを25話前後の折り返し地点までにやっつけることで、盛り上がるわけですものね。
出口 そうなんです。それがどうなるのか……そもそも、『ビルド』は9月から放送が始まりましたけど、今後も毎年9月から新シリーズ開始となるのか、どこかで調整を挟んで10月開始になるのか。その辺もわかりませんからね。
――『ビルド』は、というかライダーとスーパー戦隊は新シリーズの放送開始時期だけではなく、放送時間も変更になりました。これまで朝7時30分の1時間=30分枠2つが特撮タイムだったところが、9時からに変更となり、裏のフジテレビの『ドラゴンボール超』『ワンピース』と強力なアニメと放送時間がかぶってしまいます。単純に視聴率もそうですけど、なんかいろいろと影響はあるのではと思いますが、どう思われますか?
出口 それは影響あるでしょうね。ただ、まず気になるのは声優さんですよね。『ドラゴンボール超』と『ワンピース』は両方とも歴史が長い人気作品ですから、かかわっている声優さんも多い。かたやテレビ朝日のスーパーヒーロータイムに出演されている著名な声優さんも多いですから、今のままでは出演者のかぶりがどうしても発生しそうなんですよね。
声優さんだけではなく、アニメにも特撮にも、製作委員会には東映さんとバンダイナムコさんが名を連ねています。これまでは時間帯がズレていたから共存できたわけですが……今までの歴史から考えても、本当にあり得ない、ちょっと近代未聞の事態だなとは思います。何かしらの対策がとられるんじゃないかなとは思いますけどもね。
ただ、今7時半から放送時間が9時にずれるのはいいなと思うんですよ、ご家庭によって違うでしょうが、僕みたいな人間からするとちょっと朝が早いなと思っていましたから。子どもが1人で日曜の朝7時半に起きてテレビを見ているよりも、家族揃ってご飯を食べながら一緒に見れる、親御さんと一緒に見れる時間帯に移ったのはメリットだと思います、「これ欲しい。買って!」とお子さんが親御さんにいえる機会も増えるでしょうし(笑)。
――それはたしかにメリットですね(笑)。ただ、放送時間がかぶったことで視聴率は2枠とも影響がすぐに出そうです。
出口 そうですね。ただ、今は録画も多いと思いますし、最近の特撮はオリジナルの作品をネット配信することが多いんですよ、オリジナル新作『仮面ライダーアマゾンズ』がAmazonプライムで配信されたのが特に有名ですけど。
――特撮は、ネットでのオリジナル作品配信に早くから着手していた印象があります。
出口 特撮は登場人物が多いので、本編以外にも物語が構築しやすい、深みの物語を演出しやすいですし、好きな作品をもっと知りたい、もっともっと掘り下げてほしいという人が特撮ファンには多いですから。東映作品は以前から多種多様な作品のクロスオーバー、いろんなヒーローが出てくる『スーパーヒーロー大戦』シリーズが存在しますし、『ウルトラマン』シリーズも別作品のヒーロー同士ができる枠組みを作っているので。
スーパー戦隊シリーズも、現在放送中の『宇宙戦隊キュウレンジャー』で、スーパー戦隊史上初物の単独スピンオフが『from Episode of スティンガー 宇宙戦隊キュウレンジャー ハイスクールウォーズ』がYouTubeのバンダイ公式で配信が始まりました。
ここ数年の特撮はテレビ以外の場でアウトプットされた作品がすごく面白いんです。テレビで放送されたものと比べても、安っぽく感じたりもしません。今後もネット配信は続くだろうし、放送時間が変更になったことで“放送枠”を超えるような試みが、「『ビルド』はすごく面白いことをやるなぁ」という試みが飛び出しそうなので、楽しみです。
(取材・構成=編集部)