東京証券取引所は、上場企業の相談役・顧問の状況に関する開示制度を来年度から実施する。
上場企業は、来年1月以降に東証へ提出するコーポレート・ガバナンス報告書に、社長や最高経営責任者(CEO)経験者で相談役・顧問に就いている人物の氏名や役職、業務内容、勤務形態などを新たに記載することが求められる。
取締役にとどまっている相談役は対象外だ。3月期決算企業の場合、来年6月の定時株主総会終了後に提出する報告書からの適用となる。実際に開示するかどうかは企業の任意としており、罰則規定は設けないが、情報を開示しない企業は株主や投資家から、「なぜ開示しないのか」について説明を求められることになろう。
現行の会社法には、相談役・顧問の規定はない。社長や会長を務めた後、当然のごとく相談役や顧問に就くのは、日本企業に長く根付いた慣習にすぎない。相談役や顧問は、死ぬまで会社が役員経験者の面倒をみるための究極の終身雇用制度だ。海外にはない日本独特の制度で、東京株式市場で存在感を増してきている外国人投資家からは「不透明」との指摘が多かった。
相談役・顧問制度の廃止の流れをつくったのは、東芝の粉飾決算事件だ。2015年、粉飾を主導した田中久夫元社長、佐々木則夫元副会長、西田厚聰元相談役の歴代3トップが辞任した。その後のトップ人事を仕切ったのは、当時、東芝相談役で日本郵政社長を務めていた西室泰三氏だった。
一相談役にすぎない西室氏が、東芝の“闇将軍”として君臨した。東芝本社ビル38階の役員フロアには、相談役の個室もあった。西室氏は、東芝の中興の祖と呼ばれる土光敏夫氏が使っていた部屋に居座り、社内では“スーパートップ”と呼ばれていた。
東芝は16年2月、相談役・顧問制度を改革すると発表した。批判の渦中にあった西室氏は、相談役を退任したが名誉顧問に横滑りした。
相談役・顧問は取締役ではないため、経営責任がない。そんな立場の人物が「院政」を敷くのだ。「相談役・顧問は百害あって一利なし」と強い批判が浴びせられるようになった。
武田薬品、相談役・顧問廃止の株主提案は3割の賛成
今年の株主総会で最も注目されたのは、6月28日に開催された武田薬品工業だった。株主15人から、相談役や顧問などの廃止を求める株主提案がなされていたからだ。14年間にわたって社長や会長を務めた長谷川閑史氏が、この日の株主総会をもって退任し、相談役に就くことになっていた。
総会では、提案した株主のひとりが長谷川氏の経営実績を疑問視し、相談役として残ることは「ガバナンス(企業統治)改革の動きに逆行している」と、提案理由を説明した。会社側は「権限が極めて限定された相談役が、強い影響力を及ぼすことは考えられない」と提案に反対を表明。「長谷川氏の年間報酬額を現在の12%に減らし、社用車や専任の秘書を置かない」ことを説明し、理解を求めた。
株主提案の賛成率は30.51%だった。否決されたものの、多くの株主の支持を得た。長谷川氏は総会後、相談役に就任した。17年3月期の有価証券報告書によると、長谷川氏の年間役員報酬は4億900万円。内訳は、基本報酬1億1700万円、賞与1億4700万円、株式報酬1億4500万円。このうちの基本報酬の12%に当たる1400万円が、長谷川氏の相談役としての年間報酬になるとみられている。
北陸電力や四国電力の総会でも、相談役や顧問の廃止を求める株主提案が出されたが、いずれも否決された。一方、日清紡ホールディングスや阪急阪神ホールディングスは今年、相談役制度の廃止を決定。J.フロントリテイリングも、相談役の新任を認めないことを決定した。