警察庁が7月に突然発表したパチンコ・パチスロの規則改正案。7~8月にかけてパブリックコメントの募集が実施され、1万4838件もの意見が寄せられた。しかし、大方の予想通り、それらのコメントが反映された様子はなく、ほぼ当初の発表通りの規制が確定。来年2月1日から施行されることとなった。
規制の主な内容は、パチンコで大当たりしたときの出玉数の上限を現行の2400個から1500個に引き下げるというもの。パチスロも同様に480枚から300枚に引き下げられる。
また、「標準的な遊戯時間」とされる4時間で獲得できる出玉が発射総数の1.5倍と定められた。パチンコを4時間打ち続けて発射できる玉は2万4000発。その1.5倍となると1万2000発が勝ち分となるので、1発4円で換算すると4万8000円が“上限”ということになる。さらに、パチンコにもパチスロと同様の「設定」を導入できるという内容も盛り込まれた。
「今回の改正で、いちばんダメージを受けるのはパチンコホールですね」とパチンコ雑誌編集者のAさんは言う。
パチンコ業界を構成しているのは、警察の生活安全局や検定機構などの管理団体、パチンコ機器を製造・販売するメーカー、その機器を設置して営業するホール、そしてエンドユーザーとなる一般客だ。この中で、まずパチンコ機器メーカーについては「規制後も現状とほぼ変わらない」という。
「メーカーは規則に準じた機械をつくるだけなので、それほど景気は変わらないでしょう。むしろ、新たな機器の設置・開発によって需要が増えるケースもあります。ただし、パチンコ業界は衰退していることは間違いないので、長い目でみれば下り坂ですね。一部のメーカーは、パチンコ・パチスロ業界に見切りをつけてカジノ機器の開発にシフトしています」(Aさん)
パチンコホール、出玉規制で一人負けか
では、なぜパチンコホールへの影響が大きいのか。パチンコホールのコンサルタント業務を手掛けるB氏が語る。
「いわゆる『マックス機』の撤廃により、台の買い替え代が高くついた上に客足も落ち込んできている。すでに台所事情は苦しいのに、さらに新基準の機器に入れ替えなくてはならない。大手チェーンは持ちこたえるかもしれないが、中小のパチンコホールにとっては、いよいよ死活問題だ」(B氏)
この業界では「パチンコが衰退するとパチスロが盛り返す」というシーソーのようなジンクスがあり、そのためホールも総合的な売り上げを保ってきたが、今回はパチスロも大幅ダウンすることで売り上げを補填できない状況に陥りそうだ。
「今回の規則改正でパチスロは6号機【※1】の時代に突入しますが、その中身は5号機のまま出玉率だけ下がったようなもの。新たなゲーム性を打ち出していくのは難しく、新規はもちろん従来のファンもますます離れていくでしょう」(同)
ただし、パチンコにとっては「設定」の導入という大きな変化も加わる。パチスロ機には6段階の「設定」があり、ホールが任意で出玉率を変えることができるが、これがパチンコでも導入されるのだ。これは、業界が以前から推し進めている「封入式パチンコ」【※2】への布石ともいわれている。
「現在、ほとんどのパチンコホールはデジタルの回転数を調整するための釘調整をしています。この釘調整は違法とされており、取り締まりも行われていますが、現状ではまだまだ横行しています。
これが封入式になればホールも釘に触ることができなくなり、機械的に出玉調整ができるようになる。釘調整は偶発性が高く、どんなに調整してもムラが出ることがありました。それを封入式や設定の導入でしっかりと管理できるのであれば、ホールとしては経営がやりやすくなるかもしれません」(同)
客側とすれば、どの台も同じ回転数なら攻略要素がなくなってしまい、設定任せの“運ゲー”になってしまう。微妙なストローク調整(ハンドルの強弱など)といったテクニックで稼いでいたプロが活躍する場もなくなってしまうかもしれない。
パチンコ業界を衰退させる警察庁の思惑
パチンコ業界にとっては苦しい結果となりそうな今回の規制だが、この“改悪”の陣頭指揮を取っているのは警察庁だ。パチンコ業界と警察は一蓮托生で、パチンコ業界には警察OBの天下りが多いともいわれている。なぜ、警察側が自らの利権であるパチンコ産業を衰退させるようなまねをするのか。
「今回の規制はギャンブル依存症を減らすための対策という大義名分があります。依存症対策はカジノ解禁に向けての大きな課題といわれており、警察としても力を入れざるを得ないのです」(A氏)
とはいえ、日本におけるカジノの管轄は国土交通省が管理する行政機関が行うとされており、カジノ利権は警察には流れていかない。
「業界関係者の間では、『警察庁のなかでパチンコを管理する生活安全局のトップが、自分の着任中に成果を出そうとして規則改正を持ち出したんじゃないか』と噂になっています。
それに、警察の天下り先は金融業や保険業も多く、パチンコ業界のことはさほど重視していないという見方もあります。『社会問題化して叩かれるぐらいなら、目立たないように規制してしまおう』ぐらいにしか考えていないのかもしれません」(B氏)
根本的にグレーな存在のパチンコ業界だが、健全化を目指すことをあきらめ、より目立たぬ存在となって生き延びるしかないのだろうか。タバコと同じで、どんなに値上げしようが好きな人はやり続ける……。警察やパチンコ業界がこういう考えなのであれば、これからもギャンブル依存症が減ることはないだろう。
(文=清談社)
【※1】
パチスロ機は法規改正によって更新される。現在の5号機は規則改正後は違法機となるため6号機に移行する
【※2】
完全密閉型のパチンコ機。釘調整が難しいとされる