元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな三権は「司法」です。
今回紹介するのは、東京都有明にある設立5年目の会社です。インターネットで動画配信を行っており、売り上げが逓増し6000万円を超えた頃、税務調査の連絡があったそうです。ここからは、代表取締役の方からの情報を基に解説いたします。
調査は、事務所が狭いことを理由に、税理士事務所で行われました。調査の予約を受ける際、税理士の先生が税理士事務所で行いたい旨を伝えれば、担当の調査官はほとんどの場合受け入れるでしょう。しかし、これは調査官にとってはあまり良いことではありません。従業員に話を聞くことが容易ではなくなりますし、税理士事務所に用意された、調査先にとって都合のいい資料しか見ることができないからです。
約束の時間の10時ちょうどに現れたのは、茶色い髪を後ろで束ねた、入庁3年目の女性でした。調査部門では2年目になります。最初の1時間は会社の概要を話し、用意した帳簿資料をちらちらと見ていました。
調査官は、ウェブの知識がまったくなく、飛び抜けて多い広告宣伝費について、執拗に聞き取りを行っていました。毎月、Yahoo!に対してリスティング広告(検索エンジンの検索結果に表示される広告)の支払いがあり、それが理解できなかったようです。事前の準備調査で、売り上げの3割を占める広告宣伝費に目をつけ、統括官に「多すぎる。架空経費かもしれない。徹底的に調べてこい」などと言われたのかもしれません。何か見つかるまで、あきらめずに探していました。
結局、広告宣伝費から否認事項は見つからず、午後からはその次に過大だった旅費交通費などを中心に見ていました。一般的に否認されやすい接待交際費については、全体から見ると少なかったこともあり、少し領収証を確認しただけでした。税理士の先生の指導で、飲食や贈答に関するすべての領収証に、相手の氏名や自社との関係を裏書きしていました。このように丁寧に管理していると、個人的なつけこみや架空の交際費の計上を疑う可能性が低くなります。やはり、不正を行う人というのは無計画、あるいはずぼらだったりするので、交際費程度で用意周到に裏書きをして不正を行うということは想定しにくいのです。
多くの納税者は、嘘をつくことにストレスを感じます。架空経費のために領収証を用意するだけではなく、さらに裏書きで偽装するという2段階の嘘には抵抗があるはずです。調査官もそう判断して、早々に交際費に見切りをつけ、他の項目を調べたのだと思います。