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惨敗の小池百合子・希望の党、自民の補完勢力化か…東京、再びカジノ誘致最有力に

文=小川裕夫/フリーランスライター
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惨敗の小池百合子・希望の党、自民の補完勢力化か…東京、再びカジノ誘致最有力にの画像1衆院選の厳しい選挙結果を受け、報道各社の取材に応える希望の党の小池百合子代表(読売新聞/アフロ)

 10月22日、第48回衆議院議員総選挙が投開票された。その結果、自民党は公示前と同じ284議席を獲得。公明党は5議席も減らしたが、憲法改正発議に必要な3分の2議席を自公で確保した。

 一方、小池百合子都知事を代表に据えた希望の党は、公示前には200議席を確保するとの報道もあったが失速し、獲得議席は50議席にとどまった。今年7月の東京都議会議員選挙で圧勝した小池知事率いる都民ファーストの会は、まさに“我が世の春”を謳歌していた。それから、わずか3カ月で人気は急降下。衆院選の大敗北によって、小池知事の求心力は今後ますます低下することが予想される。

 小池人気の急落で、特に大きな影響が出るとされるのが東京五輪に関するインフラ整備だ。五輪会場の整備は、政府や与党・自民党と共同歩調を取らなければならない部分も多い。勢いのあった小池知事だったら、多少無理な注文をつけても国や自民党はその言い分を飲まざるを得なかった。しかし、もはや自民党は小池知事の言い分に耳を貸す必要はなくなった。

 自民党と小池知事の関係が悪化する状況とは裏腹に、実はIR(統合型リゾート)の誘致では東京に追い風が吹きつつある。

 2016年、IR推進法が成立した。IRによって整備されるのは国際会議場・ホテル・ショッピングモール・アミューズメント施設など多岐にわたるが、その目玉はなんといってもカジノだろう。というより、IR=カジノといっても過言ではない。

 とはいえ、IR推進法だけでカジノを開設できるようになったわけではない。今後はカジノ開設を希望する地方自治体は政府に申請し、政府はIR地域を指定する。地方自治体がカジノを開設したいと申請しても、すべてが認可されるわけではない。晴れてカジノを開設・運営できるのは、あくまでも政府のお眼鏡に適った自治体だけなのだ。

 政府内では、カジノを開設するのは国内でも2カ所程度とされてきた。現在、政府や自民党はカジノをどこに設置するのかという検討を水面下で進めている。カジノは経済効果が高く、また地元に多くの雇用を生み出す。そのため、カジノを誘致したいと考えている自治体は多く、カジノ誘致をめぐる綱引きは政財界のみならず社会の関心を集めてきた。

紆余曲折

 当初、政府はカジノを設置する都市を東京と沖縄の2カ所としてきた。首都・東京は石原慎太郎都知事(当時)からカジノ誘致に力を入れており、沖縄はリゾート振興の起爆剤としての効果が高いと判断されたことが理由だ。

 ところが、政府・自民党と沖縄県が基地問題で対立する関係にあり、わざわざ政府が政府に盾突く沖縄にカジノをプレゼントする必要はない。そう判断されて、沖縄のカジノ構想は遠のいた。東京都は、14年に就任した舛添要一都知事(当時)がカジノに慎重な姿勢を示したこともあり、誘致レースから脱落した。

 東京・沖縄に代わって有力地として浮上したのは横浜市と大阪市だ。横浜の山下ふ頭は再開発を進めており、その再開発の中心軸にカジノを据える。そんな開発ビジョンの策定が進められた。

 横浜がカジノ有力地に急浮上したのは、安倍内閣で陰の権力者ともいわれる菅義偉官房長官の地盤だということが大きく影響している。当初、横浜財界もカジノ構想に期待を膨らませていたが、歳月の経過とともにトーンダウンしてしまった。そこには、「横浜財界の重鎮で菅官房長官の後ろ盾ともいえる藤木幸夫氏の意向が強く反映された」(業界紙記者)といった背景がある。

 全国的には決してメジャーな存在ではない藤木氏だが、横浜港運協会会長や横浜エフエム放送社長、横浜スタジアム会長などを務めており、いわば横浜経済界トップの立場にある。それだけに、横浜にカジノを開設するか否かは藤木氏の思惑が色濃く反映されているともいわれる。

 横浜にカジノが開設されれば、経済効果や地域振興といったメリットがある。本来なら、藤木氏が莫大な経済的恩恵をみすみす逃すことはないが、藤木氏は雑誌のインタビューなどで、依存症が心配されるカジノは横浜市民のためにならないと断じている。しかし、藤木氏がカジノに後ろ向きな理由はそれだけではない。

「カジノ関連事業は、政府主導で進められる可能性が高いからです。国主導で開発が進められた場合、横浜経済界にもたらされる経済効果は薄く、雇用創出も思ったほどないでしょう。これだと、地域活性化に寄与しません。国主導のカジノは、自分たちのシマを荒らすような行為。藤木氏は横浜財界の重鎮であり親分ですから、第一に地元・横浜が潤うような話でなければ、藤木氏の面目は潰れてしまう。そんな国主導のカジノをやるぐらいだったら、地元企業でコンソーシアムを組んで開発する。そのやり方なら自分たちがイニシアチブを取れます。国主導ではなく、自分たちで港湾開発をする。そのほうが横浜にとっても経済的恩恵は大きく、『やっぱり横浜は、藤木さんでもっている』ということになるので、ますます藤木氏の株が上がります」(前出・業界紙記者)

 藤木氏に触発されるように、カジノを積極的に誘致していた林文子市長も考え方を一転。カジノに慎重な意見を口にするようになった。市長が慎重派に転じたことで、カジノ最有力地だった横浜も誘致レースから一歩後退した。

東京が再浮上

 こうした紆余曲折を経て、再び最有力地に浮上しているのが東京だ。衆院選で小池知事の求心力が弱まっている点も、東京に有利に作用したといわれる。

「衆院選で惨敗したとはいえ、小池知事率いる希望の党は50議席を有しています。希望の党は改憲に積極的ですから、自民党にとっては公明党よりも組みやすい相手といえます。勢いが弱まっている今なら、自民党に有利な条件で協力を得られます。いわば、カジノは希望の党を自民党の言いなりにさせるためのエサです」(永田町関係者)

 小池知事は、カジノに積極的な構えを見せている。改憲のみならず、希望の党がさまざまな場面で自民党の補完勢力として機能してくれれば、カジノという見返りは決して高くない。

 いったんはカジノ誘致レースから後退した東京は、ほかの自治体にとってかなりの強敵になるだろう。激化するカジノ誘致合戦は、今後も波乱が起きそうな気配だ。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)

小川裕夫/フリーライター

小川裕夫/フリーライター

行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

Twitter:@ogawahiro

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