今や防衛省・自衛隊については、ごく一般のビジネスパーソンでも無関心というわけにはいかない。かつて自衛隊は「違憲か、合憲か」と、憲法解釈をめぐって“日陰者”扱いされてきたが、韓国や中国との領土問題、北朝鮮の不穏な情勢もあいまって、日に日に注目度が高まっている。
それを裏づけるように、今年に入ってから、「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/5月13日号)、「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社/8月26日号)の主要経済誌2誌が、防衛省・自衛隊を特集した。
なかでも「ダイヤモンド」の自衛隊特集では、これまで伝えられることのなかった制服組高級幹部の人事予想が報じられている。
そもそも、経済誌は銀行や証券、商社といった企業の人事予想を報じるが、それには2つの目的があるという。
ひとつは、ヒトを通して、今後の企業がどう動くのかを予測するというもの。そしてもうひとつは、誰がキーパーソンなのかを取引企業の営業担当者に伝えるというものだ。
では、自衛隊の人事からは、どのようなことが読み取れるだろうか。「ダイヤモンド」の『自衛隊高級幹部人事予想』記事を読んだという海上自衛隊厚木航空基地勤務の現役海曹は、同記事は不十分だと明かす。
「自衛隊を動かしているのは幹部(士官)だけではありません。現場は海曹(下士官)が仕切っています。だから、特集記事において先任伍長人事に触れられていないのは一方的だというのが、私たち現場の思いです」
自衛隊を実質的に仕切るのは下士官
自衛隊、こと海自に限っては、艦艇や航空機にどの機器を搭載するかなどについて、現場の下士官の声が反映されるという。
そのためメーカー側は、建造中の護衛艦において先任伍長や電信長といった「パート長」に任命されることが予定されている下士官に、間接的に営業を行うという選択肢も出てくる。
このように、自衛隊の人事に関する特集記事で、陸では「上級曹長」、海では「先任伍長」、空では「准曹士先任」といった自衛隊高級下士官が抜けているのは不十分との指摘も当然といえる。
自衛隊相手のビジネスで窓口となるのは、「調達系」といわれる幹部自衛官のみならず、現場のトップである下士官という考え方は、まだ企業関係者の間ではあまり知られていない。
前出の海曹は、「統合幕僚監部の最先任下士官、海幕や各艦隊、地方隊の先任伍長こそ、裏から海自を仕切っている存在」だと力説する。これは、海のみならず陸や空も同様だ。
そこで今回は、自衛隊の現場を実質的に差配し、高級幹部のカウンターパートとして活躍する高級下士官の人事を探ってみたい。
統合幕僚最先任下士官は現空幕准曹士先任か
「日本で一番偉い下士官」といってもいい役職は、米軍の「統合参謀本部議長付先任上級曹長」に相当する「統合幕僚監部最先任下士官」だ。同職には現在、宮前稔准海尉が就いている。次に誰がこの役職に就くかについては高級幹部同様に、陸海空の寄せ集め所帯である統幕という事情と、隊員の人数比を考慮すると、自衛隊内部では誰しも察しがつくのだそうだ。航自奈良基地勤務の現役空曹が語る。
「おそらく、空幕准曹士先任の山崎勝巳准尉が統幕最先任に就くはずです。そして抜けた空幕准曹士先任には、現・航空総隊准曹士先任の高田勝吉准尉が就くでしょう」
統幕最先任には、初代・小畑良弘准陸尉、2代・渡邊満徳准陸尉、3代・宮前稔明准海尉と、隊員の人数比に応じて持ち回りで陸・海自衛官が就いている。高級幹部である統合幕僚長と同様の流れだ。これに準じると、次は空自衛官が就くことになる。ちなみに、宮前准海尉は、統幕最先任の前は海自の下士官トップ「海幕先任伍長」だった。
過去、空自出身者はいない。そこで、現在、空幕准曹士先任の階級に就いている人物が、次の統幕最先任の最有力と考えられる。つまり、空幕准曹士先任の山崎准尉とみて、ほぼ間違いないだろう。