次期の候補をめぐって大荒れの海上自衛隊
加えて、陸自の下士官トップ「陸幕上級曹長」は、今年7月に高橋将准陸尉が就いたばかりだ。同准陸尉の統幕最先任への就任は、初代、2代と陸出身者が続き、海出身者にバトンタッチしたという事情を鑑みると、官公庁の常識から考えても、やはり無理がある。
他方、海自のトップ「海幕先任伍長」・関秀之海曹長は、山崎准尉が空幕准曹士先任に就くより3カ月ほど早くこの座に就いている。陸・空と違い、下士官トップを曹長の階級にしている海自だが、現・海幕先任伍長の関曹長を准尉に昇任させて統幕最先任に2代続けて人材を送り込むとなると、陸海空自衛隊全体の和を乱しかねない。
そのため関曹長は、宮前准尉以外の海幕先任伍長経験者たち同様、准尉昇任で転勤し、そのまま定年退官という道をたどる可能性が高い。
統幕最先任を出すとみられる空自。当面は大きな異動がないと予想される陸自。他方、海自では次の海幕先任伍長の座をめぐって、熾烈な争いが繰り広げられているという。海自生徒関東OB会関係者が語る。
「そろそろ生徒出身【註:旧海自第1術科学校生徒部、少年術科学校出身者の総称】から出してもらわないと、部隊の統率に自信が持てない」
すでに海自第1術科学校生徒部は廃校となったが、いまだ海自下士官に豊富な人脈を持つ“生徒出身者”だが、そのなかから海自下士官トップの座に就いたのは、意外にも第2代海幕先任伍長の畑中一泰氏だけだ。
とはいえ、下士官のなかではエリートとして遇される生徒出身者だけあって、現在、各部隊、艦隊などでは先任伍長職に就いている者は多い。だが、第3代以降、海自下士官トップの座に就いた生徒出身者はいない。これには理由がある。
「そもそも、ソナーと通信といった専門技術者養成の少年術科学校や第1術科学校生徒部は、年間120人採用、途中からは60人採用とごく少数です。彼らが40代になる頃には、同期入隊者の半数くらいしか残っていません。約4万人いる隊員のなかでは、極めて少数派なのです」(海幕関係者)
護衛艦隊などの先任伍長が次の海幕先任伍長か
もっとも、ごく少数の精鋭である生徒出身だけあって、次の海幕先任伍長候補として名前が挙がる人は数多い。だが、彼らが海自下士官トップの座には就けないのには、外部からはうかがい知れない理由があるという。
これまで自衛隊を取材し、冒頭部で紹介した「ダイヤモンド」自衛隊特集の執筆にも参加した、経済ジャーナリストの秋山謙一郎氏が語る。
「生徒出身の19歳、20歳で下士官に任命された彼らは海曹経験が長いので、どこかの部隊で先任伍長職を経験した後、『幹部予定者課程』や『准尉講習』を経て昇任させられるので、海幕先任伍長職に就くためには、よほど巡り合わせがよくない限り難しいでしょう」
秋山氏によると、かつて存在した曹候補学生【註:高卒後2年間の教育で下士官に任命された制度】も同様の傾向があるが、こちらは採用人数が例年、数百名もいたため、海自下士官トップの座に就く人物を輩出できる可能性が高いという。
「今、横須賀、佐世保、呉、舞鶴、大湊の各地方隊、そして護衛艦隊、潜水艦隊、航空集団といった元締めとなるセントラル部隊の先任伍長職に就く人のうち、若い人が次の海自下士官トップの可能性があります」
もっとも、セントラル部隊のうち「自衛艦隊」の先任伍長は、そのカウンターパートである自衛艦隊司令官同様、現場部隊の総元締めという意味合いから、そのまま海幕に横滑りして先任伍長職に就く可能性は、「極めて低いのではないか」(秋山氏)という。