一部の愛国本については、書店のランキングを操作しているということもある。出版業界では、紀伊國屋書店の「PubLine」という、販売部数を出版社などに提供するサービスがある。安倍首相の後援会が安倍首相を称える本を紀伊國屋書店で政治資金を使って数百冊買ったということが以前報じられていた。これは、紀伊國屋書店のベストセラーランキングに乗せることで、「売れている」ということを出版業界内に示し、さらに愛国本の力を高めようとするものだ。
また、一部の愛国本の著者は、自らセミナーを開き、そのセミナーの会員に本を売るようにしている。そういった著者は、著者紹介の欄にそのセミナーの案内を掲載している。こうして、右派系の本は書店店頭での力をますます持つようになっていく。
右派系の本のつくり方
右派系の本は、読み手にわかりやすいようにつくられている。まず、危機感を煽るような表紙と帯があり、「わが国は大丈夫なのだろうか」「安倍首相でないと日本はだめなんじゃないだろうか」ということを、買う人に印象づける。ぱらぱらと開いてみると、書いてある内容自体はそれほど難しくはない。「ならば読んでみようか」という人も多い。もちろん、こういった右派系の本をよく買っている人もいるだろう。
実際に読んでみると、頭に入りやすいような内容を(ただし専門家の検証に耐えるものではない)、わかりやすい文章で書かれており、読者の溜飲を下げることができるようになっている。文章については、ゴーストライターの手によるものが多い。また、対談をまとめた本も多い。最近では、ビジネス書のゴーストライターは「編集協力」ということで奥付やあとがきに氏名が掲載されることが多いが、右派系の本については決して多くはない。しかし、文章の読みやすさはプロのゴーストライターが書いたとしか思えないような本も多い。右派系の本については、ゴーストライターはなぜか名前を出したがらないのだ。
本文の組版も、ゆったりと組んであるものが多く、読みやすくできている。こういったつくりにより、難しそうなことをわかりやすく書いていると読者に思わせ、読者は賢くなったような気分になる。また、値段も大事である。単行本で1,200円から1,400円程度、あるいは新書のものも多い。とくに新書は、千円札1枚を出してお釣りがくるということになっている。そんなに、高いものではないのだ。このように、読者にフレンドリーでリーズナブルなつくりをしているからこそ、右派系の本は売れるのである。
「売る」ということを意識した本は、取次を中心とした出版流通システムに適合し、手に取ったあとも読者に優しくできている。こういった本が売れることは、決していいとは思わない。しかし、右派系の本が現在の出版流通システムに適合しすぎていることは、そうではない本を出している出版社にも考えていただきたいことだ。
(文=小林拓矢/フリーライター)