出資額は200億円以上
実績のなさを補っていたのが、齊藤被告が講演や著作などで語る「世界一のスパコンを製造する」という“志”や、そのスパコンで「働く必要のない『不労』の世界を手に入れ、人体のメカニズムを革新的に解明することによる『不死』の世界を手に入れます」という“夢”だった。
まるで錬金術師や魔術師の世界である。だが、新潟大学医学部から東京大学大学院医学系研究科で学び、それに飽き足らずに米シリコンバレーで医療系システム会社を起業して成功を収め、11年3月11日の東日本大震災を機に「日本の役に立ちたい」と思い帰国したという齊藤被告の経歴が、「夢のストーリー」に真実味を与えた。
国だけではない。ペジー、エクサス、電子部品開発会社のウルトラメモリの3社を中核とする齊藤被告のグループ企業は、人工知能開発、仮想通貨の電算処理、投資組合など十数社に及び、そのほか前述の山口氏絡みの日本シンギュラリティ財団、日本シンギュラリティ党など派生する分野もあり、多くの資金を必要とした。そして齊藤被告に賛同した企業や資産家が出資した額は200億円以上にも達するという。
それなりの実績も残している。齊藤被告の強みはスパコンのなかでも小型化、省力化で、その分野を競う「グリーン500」の世界ランキングでは15年に1位から3位を独占した。また、スパコンの計算速度を競う「トップ500」でも、開発したスパコンの「暁光」が世界4位に入っている。
天才だがホラ吹き――。特捜捜査によって齊藤被告はホラ吹きの部分だけを強調されているが、NEDOもJSTも専門家集団であり、技術的なウソが通るほど甘くはない。甘かったのは、資金を枠いっぱいに与えるという配慮であり、そこに関与した官僚は誰で、そうさせた政治家は誰なのか。「忖度」が働いたという意味では、森友・加計学園と同じ構図である。
従って、「第3の森友問題」というのは間違ってはいないが、違いは特捜案件として捜査中であること。今後、復活した特捜部とマスコミが補完しながらスパコン事件を追及すれば、今年は場合によっては政権が揺らぐ可能性もある。
(文=伊藤博敏/ジャーナリスト)