金融庁は昨年9月8日、監査基準の改定や監査法人のローテーション制度を今年度の議題とする方針を明らかにした。東芝のような事態を今後起こさない。それが、この方針の背景にはある。
東芝は8月10日、監査法人から「限定付き適正」の意見を得た2017年3月期の有価証券報告書を提出した。監査法人の意見が「不適正」「意見不表明」などであれば上場廃止の可能性もあったが、崖っぷちで踏みとどまったかたちだ。
2015年から17年にかけ会計不祥事が次々と発覚した東芝は、15年まで同じ監査法人が47年間監査を担当していた。金融庁が提唱するローテーション制度には、そうした長年同じ監査法人が担当することからくる馴れ合いを防ぐ意図がある。近年ではカネボウやライブドア、オリンパスなどでも不正会計があったが、今回の金融庁の取り組みでそうした事態を防ぐことができるのだろうか。
今回、5人の公認会計士に、監査の実態について語ってもらった。
「期待ギャップ」
C 会計士の資格を取るための勉強で「監査論」というものを学びますが、そのなかで「期待ギャップ」という言葉が出てきます。一般の人々が監査に求める期待と、実際の監査業務との間にはギャップがあるので、それを埋めていかなければならないという課題があり、ずっと昔からいわれている点です。
B 会社がつくる決算書を監査するわけですが、決算の内容がおかしい場合、意図的な場合とそうではない場合があります。意図的でないのは「誤謬」といい、要するに単なる間違いなので原因を突き止めて修正すればいい。しかし、企業側が意図的な場合、会計士には強制捜査権はないので、国税局のように企業に入っていって「動かないでください!」などと言って隠されている資料を探すということはできません。監査制度の大前提には経営者の「誠実性」があり、意図的に不正を行うということは想定していないなかで、会計士は監査に入っていくわけです。ですから、会社が意図的に行う不正まで見つける義務はないんですね。改ざんされたりすると、それに対する対応手続きは想定していないのです。
C 東芝の場合は聞くところによると、巧妙というか、きれいに資料の辻褄があっていたらしいです。監査法人では、その会社の売上高や利益、社会的な信用性、要するに「不正しそうか、しそうでないか」によって、チェックする項目としない項目を分別するために金額基準を設けます。時間も人も限られているので、金額基準によって見るところ、見ないところを決めます。15年に発覚した東芝の不正会計のように利益を少しずつズラすようなかたちになると、異常値が出ないのです。金額基準によって切ってしまうので、そもそも見る対象に入らなかったりします。