2万人リストラに涙をのんだ元パナソニック役員、甲子園出場の野球監督転身で第二の人生
超高齢化社会・日本は今、「人生100年時代」を迎えている。社会保障費は2025年に150兆円を超えると試算されるなか、第二の人生の充実は、健康寿命の延伸につながり、次世代の負担を減らすことにもなる。
パナソニック専務まで上り詰めた後、「生涯の夢」と言い続けた高校野球監督の道にかける人物がいる。2014年から3年半にわたる熊本・秀岳館高等学校の野球部監督を経て、この春、母校である岐阜県立岐阜商業高等学校野球部監督に就任した鍛治舍巧氏だ。その人生論を聞いた。
母校・岐阜商業高校へ
片山修(以下、片山) この春から、いよいよ母校の県立岐阜商業高校(以下、岐商)野球部の監督に就任されました。岐商といえば、プロ野球選手を多く輩出している名門ですよね。
鍛治舍巧氏(以下、鍛治舍) ええ、岐商は確かに名門です。甲子園では87勝しており、中京大中京、龍谷大平安、PL学園に次ぐ4位、公立では1位です。でも、87勝はほとんど戦前ですよ。戦後は優勝もしていない。私は生まれも育ちも岐阜です。岐商を卒業後49年ぶりに故郷に帰ってきましたが、公立ですから、私立のように長時間の練習時間確保も難しいんです。
片山 チームを育て上げるには、時間がかかりますね。戦略はありますか。
鍛治舍 戦略ですか。振り返らない、立ち止まらない、急がない、ですね。岐阜県の農業政策は「地産地消」ですが、選手は、地元の選手を地元で生かす「地産地生」を目指すつもりです。
7年後の野球部創部100年までに、甲子園通算100勝を目指したい。公立高校が甲子園で全国の強豪校と互角以上に戦える基礎基盤を、しっかりとつくり上げたいですね。
片山 自信はありますか。
鍛治舍 いや、正直、わかりません。岐商の選手は、スポーツテストの基礎体力やスイングスピードでは、前任校の熊本・秀岳館高校の選手に遠く及びません。練習量が少ないので仕方がないし、逆にいえば、伸びしろがあるということですね。一方で、岐商の選手は集中力がありますよ。
私立高校の半分の練習時間で、いかに質を確保するか。「時間革命」だと思っています。簡単な足し算ではなく、掛け算の世界ですよ。掛け算は、一人でもやる気「0」の選手がいると、いくら掛けても「0」。これまで以上に一人ひとりとコミュニケーションをとって、モチベーションを高めていくつもりです。「知・徳・体」でいえば、岐商は「体」は及びませんが、「知」と「徳」はある。これを掛け算して、複合力を高めるつもりです。
片山 周囲の協力も必要ですね。
鍛治舍 野球の指導者は、360度に目配り、気配り、心配りが必要です。野球のグラウンドは90度。その3倍、残りの270度、つまり、家庭、地域、学校を巻き込むことが大事なんです。そこから全面的な支援がないと、野球に集中できない。あとは、企業と一緒で、PDCAをどう回すかにかかっている。