特に、ビットコインの発行と流通を支える「ブロックチェーン(分散型の元帳技術)」の拡張性が高いことは注目を集めている。それによって金融機関はコストを削減し、より多くのデータを効率的に管理、活用できるようになるだろう。すでに、マンパワーに頼ることの多かった社債の新規発行などをネットワークテクノロジーによって代行しようとする取り組みも進んでいる。実際に、そうした取り組みが実現すると、金融業界にはかなりの変化が起きるはずだ。
コインチェックは金融とは関係のないビジネスを土台とし、テクノロジー面の強みを生かしてデジタル通貨市場で成長を遂げてきた。それを支えた発想をテクノロジー開発の側面から取り込むことは、今後の金融ビジネスの開発競争に対応するために欠かせない。金融業界で進む変化への適応力を高めるために、マネックスはコインチェックを買収したと考えるべきだ。
同時に、コインチェックは今後も顧客から訴訟を起こされる恐れがある。金融庁からの認可を含め、規制面から経営が難しくなることもあるだろう。そのリスクを抑えるために、買収の条件に今後の利益の一部を既存株主に支払う可能性があることが含められ、買収価格は36億円に抑えられた。この価格が低いか否か、判断は今後の取り組みに左右されるだろう。一般的に報じられているよりも長めの目線で今回の買収を考えるべきだ。
マネックスが目指すイノベーション
時価ベースで最大580億円相当のNEMが流出するまで、コインチェックは高収益の成長企業として注目を集めてきた。これは、イノベーションを考える良いケーススタディーだ。重要なことは、人々が理性を忘れるほどの勢いで「ほしい!」と思ってしまうサービス、プロダクト、利得追求の機会を生み出すことができれば、成長は可能だということにほかならない。マネックスが目指すものも、人々の「ほしい!」という気持ちを刺激する金融サービスを生み出すことであるはずだ。問題となるのは、その取り組みに持続性を付加していくことである。
そのためには、社会のルール(法律や規制)が、新しい発想に対応しているか否かが重要だ。コインチェックの場合、取引を支えるテクノロジーの開発には成功したが、法的な面ではより積極的に金融庁と折衝を重ね、より安心感のあるデジタル通貨の取引ルールを整備すべきだった。事業をスタートしたその日から、企業は社会的な責任を負う。必要なルールや規制の策定に関与するのは当然と考えるべきだ。
過去10年ほど、マネックスの株価は横ばい圏で推移している。今回のコインチェック買収によって同社株は急伸し、レンジを突き抜けた。その背景にはインターネット証券として成功をおさめた同社が、次世代の金融テクノロジーを開発し、さらなる成長ステージに入るのではないかという見方がある。期待に応えるには、同社が政府などに積極的に働きかけ、変化の促進につながるようルールの策定を目指すことが求められる。
それは、フィンテック事業を強化し、成長を目指すためには欠かせない。それをコインチェックはおざなりにした。今回の買収を通してマネックスが新しいルールや規制の策定に向けたカタリスト=触媒の役割を果たし、ネットワークテクノロジーを活用した新ビジネス創出を目指すか否かが、同社の中長期的な成長期待を左右するだろう。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)