東証1部上場で車載用コイル製造などを手掛けるスミダコーポレーションの未公表の内部情報をもとに同社株を取引したとして、東京地検特捜部は5月29日、同社の元社外取締役、内田荘一郎容疑者を金融商品取引法違反(インサイダー)容疑で逮捕した。
逮捕容疑は、社外取締役だった2017年1月下旬ごろ、スミダが配当金を増やすとの未公表情報を入手。2月上旬ごろにかけて複数回にわたり、知人名義の口座で同社株の約8万株を約8800万円で買い付けたとされる。
スミダは同年2月6日、期末配当を6円から16円に、年間配当を24円から34円に増やすと公表。1100円前後だった株価は1300円台に上昇した。
内田容疑者は1953年11月生まれ。80年、米コロンビア大学経営大学院ビジネススクール卒業。81年独立系自動車部品メーカーのNOKに入社。95年、NOKと米国メーカーの合弁会社、ネオプトの社長に就いた。
2007年、NOKの子会社である日東テープ製造と北辰化学工業が統合して発足したシンジーテックの専務に就き、副社長を経て10年に社長に就任。13年に退任した。
そして14年3月にスミダの社外取締役に就任。該当の増配を決める取締役会にも出席していた。その後、17年12月9日「一身上の都合」を理由に辞任した。
北陸の化学品商社、江守グループホールディングスは15年4月30日、現地法人の中国人責任者の架空取引が原因で民事再生法を申請して“倒産”した。負債総額は711億円。同年5月31日、東証1部上場が廃止になった。同社が同年6月に開催した株主総会で、内田容疑者は監査役に就いた。貧乏クジを引いた格好だ。
コーポレートガバナンス(企業統治)の強化を目的に設置された社外取締役がインサイダー取引の疑いで逮捕されるのは異例だ。
スミダは欧米流のガバナンス体制を敷いていたことで知られる。取締役会は取締役・執行役の監督と経営の基本方針の策定などに専念し、それ以外の業務執行は執行役に委任する体制だ。
17年当時、取締役6人中5人が社外取締役で、内田容疑者は指名委員、報酬委員、リスクマネジメント委員を務めていた。
増配を決める取締役会のメンバーである内田容疑者が、その情報をもとにスミダ株を底値で買い、株価が上昇したところで売って荒稼ぎしたとの疑いがもたれている。外部の人間が小耳に挟んだ情報で売り買いするのとは、わけが違う。増配を決めた当事者が、インサイダー取引に手を染めていたのだ。
金融庁と東京証券取引所が15年にまとめたコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)は、上場会社に社外取締役を2人以上選任するよう求めた。しかし、社外取締役の人材不足に加え、代表取締役の友人など個人的関係を重視する選任の事例があるなど、本来の意図からかけ離れた社外取締役の起用による弊害が指摘されてきた。
内田容疑者は、“社外取締役バブル”がもたらした悪しき例なのかもしれない。