8月、中国の商標登録に一石を投じる決定があった。
人気が高い鹿児島県の芋焼酎が、中国で商標を無断登録されていた問題で、「森伊蔵」と「伊佐美」の2銘柄について中国商標局が登録の取り消しを決定したのだ。森伊蔵酒造(鹿児島県垂水市)と甲斐商店(同伊佐市)が取り消しを求めていた。
問題は10年以上前にさかのぼる。2007年、福岡県大牟田市の有限会社が「森伊蔵」「伊佐美」「村尾」の商標を無断で、中国で登録。醸造元の森伊蔵酒造、甲斐商店、村尾酒造(薩摩川内市)が異議を申し立てていた。
しかし、中国商標局は12年、この異議申立を認めなかった。中国で販売実績がないため、悪意を持った登録だとする根拠がないというのが理由だ。森伊蔵酒造と甲斐商店は中国に輸出するつもりはないが、偽物が出回る恐れがあるとして再審査を申請。村尾酒造は再審査を請求しなかった。
今回、中国商標局はこれらの商標が「3年間不使用」だったとして請求を認めた。2社はただちに「森伊蔵」と「伊佐美」の商標を中国で登録した。
中国では、商標をめぐるトラブルが多い。たとえば、米アップルは「iPad」の商標権訴訟で敗訴したため、無名の中国企業に48億円支払って商標権を買い戻した。
中国の商標登録は、先に申請した者に権利を与える「先願主義」を採用している。つまり、商標権は早い者勝ちだ。そのため、無断で商標権を取って買い戻させるビジネスが横行した。
芋焼酎の3銘柄がなぜ狙われたのか。それは、これらはなかなか手に入らない“幻の焼酎”といわれていたからだ。当時、市場に出回った「森伊蔵」は、オークションやブローカーなどを通じて、1升瓶1本3万円を超える値段をつけたこともあった。銀座の高級クラブで「1本15万円で出した」と話題になったこともある。まさに“芋焼酎”バブルだった。
それから10年余。焼酎ブームは去り、焼酎メーカーは厳しい環境に置かれている。