さまざまな企業現場を取材すると、「このキーワード(言葉)は最近目立つな」という話も多い。ここ数年は「SDGs」(持続可能な開発目標)だ。もともと国連が採択したものだが、各業界や企業では、たとえば次のような内容で説明を受ける。
「酒類メーカーの当社としては、消費者の健康志向は大切にしつつ“お酒離れ”を防ぎたい。ノンアルや微アル(アルコール度数0・00%のノンアルコールや0・5%の微アルコール)飲料の商品開発に力を注ぐのも、当社にとってのSDGsです」(総合酒類メーカー)
「アパレル業界では今、SDGsへの関心が急速に高まっています。当社も環境に配慮し、リユース、リメイク、リペアを柱とするプロジェクトを立ち上げます。その第1弾として使わなくなった当社製品を無料で引き取り、職人が丁寧に修理して再販売するリユース(再利用)事業に参入します」(アパレルメーカー)
つまり、事業活動の襟を正す意味でも用いられ、その目指す道は「自社の新たな評価」だ。
筆者は「コーポレート活動のコンサルティング」をする一方、社会人のスキルアップの相談にも応じてきたが、SDGsの視点は“個人のキャリアづくり”にも応用できると思う。
そこで今回は、前半は「地方自治体の成功事例」を紹介し、後半はその応用編で「個人の魅力づくり」に置き換えて考えたい。
都道府県別SDGsで「鳥取県」が2年連続首位に
まずは以下の表をご覧いただきたい。
【2020年都道府県・SDGs評価ランキングTOP15】
※(順位)都道府県名、SDGs指標
(1)鳥取県 51.9
(2)石川県 50.5
(3)千葉県 48.1
(4)広島県 47.9
(5)三重県 47.8
(5)福島県 47.8
(7)北海道 47.7
(7)熊本県 47.7
(9)神奈川県 47.4
(10)京都府 47.1
(11)宮崎県 46.8.
(11)東京都 46.8
(13)大阪府 46.7
(14)山梨県 46.5
(14)福井県 46.5
(14)島根県 46.5
(出所:ブランド総合研究所の調査。同率順位あり)
株式会社ブランド総合研究所が2021年5月に発表した「第2回都道府県SDGs調査2020」によれば、第1回に続き、鳥取県が首位となった(インターネット調査で登録調査モニター<15歳以上>から、居住している都道府県別に調査。調査時期は2020年6月12~29日。有効回答数1万5991人)。
なぜSDGsを都道府県別で集計したのかについて、同社はこう記す。
「SDGsは日本全国でも取り組みが始まっているが、そもそも地球全体の視点で作られたものであり、日本各地での状況を踏まえた『住民の視点』になっているとは言えません」
そこで住民目線による地域の持続性評価、悩みや不満、および幸福度や定住意欲度などを調査したという。具体的な調査結果を上記のランキング形式で発表した。
なぜ鳥取は「住民評価」が高いのか?
テーマ的に、大都市圏よりも地方の県のほうが上位に来る傾向があるが、発表数字では鳥取県への住民評価が非常に高い。
「地域の持続性を高めるために社会や環境に配慮しているかと思うか」という質問に対しては、「とても配慮している」の回答が11.9%で、全国平均(4.8%)の2倍以上。「やや配慮している」と合わせて住民の4割以上が県の持続性への取り組みを評価していた。
ここまで評価が高い理由について、同県の担当課ではこう回答した。
「鳥取県では、県内への移住定住・子育て支援・生活困窮対策、働き方改革、環境保全等、県民の皆様の声にきめ細やかに対応し進めてきました。
こうしたさまざまな活動が『SDGs達成のための積極的取り組み』として評価されるとともに、オール鳥取で進めてきた『とっとりSDGsネットワーク』『とっとりSDGsパートナー制度』などの普及活動が、県内でのSDGs実践につながったと考えています」
SDGsといっても日々の活動の結果だ。具体的にどんな取り組みをしているのか。
「役割を終えたランドセル」を外国籍の家庭に贈る
同県の担当者が話した内容のうち、たとえば「子育て支援」の取り組み事例が2020年から始まった「ランドセルの再活用」だ。
これは子どもが卒業して使わなくなった「家庭に眠るランドセル」を回収し、必要としている人に渡して使ってもらう取り組み。初回の同年は、県内に設置された回収ボックスに2カ月で170個以上のランドセルが持ち込まれた。
実際に行ったのは地域密着サービスを提供する流通株式会社(同県倉吉市)で、整理収納アドバイザーの資格を持つ江原朋美さん(「ランドセル FOR ALL」プロジェクトの発起人)を中心に担当。単なる回収→寄贈だけではなく、回収したランドセルには流通(社)のスタッフがメンテナンスをし、寄贈者からのメッセージタグも付けられた。
なかには亡き父母に買ってもらった自分のランドセルを寄贈した女性もおり、寄贈時はその女性の娘が小学校入学前で一緒に寄贈。「大切に6年間使うことも娘に伝えたかった」という。
一方、寄贈を受けたのは主に県内に住む外国籍の家庭だ。ランドセルの文化がない外国出身の家庭は必要性の理解も難しく、最近のランドセルは総じて高額だ。趣旨に賛同する双方にとっては、思いが一致する取り組みだった。
2021年は6月より回収を開始しており、今後、希望者に随時贈られる予定だという。
砂丘の草生栽培で「ラベンダーづくり」
これ以外の事例も簡単に紹介したい。
鳥取県のシンボルである砂丘。この砂丘地に目をつけ、ラベンダー栽培を始めたのが関西地方で美容室を経営しながら、妻の出身地である同県に移り住んだ寺田健太郎さんだ。
大阪、神戸、京都で4店の美容室を経営する寺田さんは、以前から手がけていたラベンダー栽培、製品化を砂丘地で行うことを考えた。そこで地権者や自治体にかけあい2020年から栽培を開始。初年度は500ミリリットルのラベンダー精油からシャンプー400リットルとコンディショナー400キログラムを製造した。
栽培は循環型農業の「草生栽培」。県の話でいえば「環境保全」だ。製品化へのストーリー性も考え、美容室の経営理念「ずっとへ、まっすぐ」も意識したという。
環境保全では、森林リサイクルで木のストローや木の紙などを製造販売する例もある。
いずれの事例も共通点は「できることで魅力づくり」と「喜ばれる仕組みづくり」だ。鳥取県は人口約55万人の「日本一人口の少ない県」。だからこそ身の丈で活動する。
SDGsを副業に置き換えて「取引先の信頼」を得る
「できることで魅力づくり」の視点は、社会人のキャリアづくりにも応用できる。
これには理由がある。筆者は大手ビジネス誌で「副業」の記事を何度も担当してきたが、コロナ禍で収入が減った人も多く、副業は小遣い稼ぎから収入の補填になってきた。
引いた視点で考えれば、副業は「明日のメシ」。商品開発でいえば新商品だ。このご時世では本業と親和性のない“飛び地の業務”よりも親和性の高い業務で専門性を広げていき、明日の主力商品に育てるのが理想といえよう。
「SDGs=持続可能な開発目標」を副業に置き換えて、もっともお勧めなのは「取引先の手伝い」だ。実はこれを行う人は多く、小さな仕事から関わるのがコツだ。その際に「できることで(自分の)魅力づくり」を意識しながら地道に取り組む。後々を考え、所属する会社に届け出を行う、話のわかる上司に話すことも忘れずに行いたい。
たとえば、あなたが物流業務の担当者なら、在職中に取引先(物流委託先)の業務改善を提案する。これは無償かもしれないが(自社からは給料をもらう)、そうした経験を積み重ねれば、独立して物流コンサルタントの道が拓けることもある。取引先から「ウチに来ないか」という話が出るかもしれない。何度もそうした事例を取材してきた。
銀行出身者が、50歳以降に取引先企業の経理や財務責任者に移る例は長年多かったが、今後はどうか。もっと現場実務に合った人材の移籍例が増えると感じている。
「自分の得意分野」のありもの探し
もう一度、鳥取県がSDGs活動で、ランキング首位となった事例から考えたい。
住民の評価が高い=取引先の評価が高い、ランドセルの再活用=できることを行い、周囲を(心地よく)巻き込む――の視点といえないだろうか。
50代会社員の友人・知人(複数)からは「何歳まで働こうか」「独立も視野に入れて週末起業の本も読んでいる」という話も聞いてきた。コロナ以前なので、今はもっと切実感があるだろうが、多くの会社員は、まだ定年が近づいてから行動し始めると感じている。
まずは「得意分野のありもの探し」を抽出し、副業収入につなげてはいかがだろうか。
「人口最小の県が2年続けてランキング首位」に学べることはきっとあるはずだ。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)