日産自動車は22日、自身の報酬を有価証券報告書に過少に記載するなど、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の容疑で逮捕されたカルロス・ゴーン会長を解任した。解任が決議された同日の取締役会は3時間以上におよんだが、「これまで日産の取締役会では基本的にゴーン氏がすべてを決めていたので、これほど長くかかるのは異例」(経済記者)といい、早くも“ゴーン不在”の影響が現れているようだ。
日産の西川広人・社長兼最高経営責任者(CEO)は19日の記者会見で、内部通報を受けて社内調査を行った結果を検察に報告し、検察当局と協力して調査を進めてきたと説明しているが、経済記者は語る。
「数カ月前から西川社長が中心となって、ごく限られた幹部で極秘に調査を進めていたようですが、もしゴーン氏やルノー出身の幹部にバレれば、逆に西川社長らが追放されることになる。その意味では、相当な覚悟だったと想像できます。ゴーン氏とルノー出身の取締役2人が普段、ほとんど日本にいないことも幸いしました」
では、なぜ西川社長はそこまでのリスクを負ってまで、ゴーン氏の不正を追及したのだろうか。
「ルノーの筆頭株主であるフランス政府は2015年、2年以上保有する株主に2倍の議決権を与えるフロランジュ法を制定し、持ち株比率を約30%に引き上げてまでルノーの経営への関与を強めようとしました。同政府は以降、ルノーと日産の経営統合を強く要求するようになりましたが、ルノー会長兼CEOのゴーン氏は反対。そこで同政府は、今年6月のルノー取締役改選のタイミングでゴーン氏を退任させようと圧力をかけましたが、結局、ゴーン氏は経営統合を進めるという条件を飲み、2022年までの任期延期を同政府から認めてもらったといわれています。
そのためゴーン氏は対外的に経営統合を否定していたのとは裏腹に、日産内で来年にはルノーとの経営統合を発表する方針を一部の幹部には伝えていました。現在、ルノーは日産株式の40%以上を保有して議決権を持っており、もし経営統合が実現すれば日産の“フランス企業化”は止められない。当然ながら日産生え抜きの幹部たちは反対の立場です。そこで今回、西川社長は内部通報をうまく利用してゴーン追放に走ったといわれています。一歩間違えば自分のクビが飛ぶことになるので、『西川さんは体を張ってまで日産を守った』という声すら社内では聞こえてきます」(同)
ルノー・日産連合の行方
では今後、日産の経営の独立性は保たれるのであろうか。
「当然ながらルノーは、ゴーン元会長と同じく逮捕されたグレック・ケリー元代表取締役の後任として2名の新たな取締役を送り込んでくるでしょうが、取締役会の構成はゴーン氏不在のなかで日本人が5人、ルノー出身者が4人となり、さらに代表権を持つのは西川氏のみなので、日産側がこれまで以上に経営をハンドリングできる可能性は高くなるかもしれません。ただ、日産がより自由な経営を求めて取締役会の人数を増やし、日産生え抜きの取締役の比率を高めようとすれば、ルノーとの間で揉める可能性もあります。