米投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)のM&A(合併・買収)の勢いが止まらない。今度は“玉突き買収”だ。
KKRが買収したばかりの自動車部品メーカー、カルソニックカンセイが10月22日、欧米自動車大手、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)から自動車部品部門のマニエッティ・マレリを62億ユーロ(約8000億円)で買収すると発表した。KKRの特別目的会社でカルソニックの親会社であるCKホールディングスが買収する。日本企業の自動車関連のM&Aでは過去最大の買収額だ。
2019年6月までに買収手続きを完了する予定。カルソニックとマレリは経営統合し、新会社の社名を「マニエッティ・マレリCKホールディングス」に変更する。
自動車部品事業でカルソニックは世界28位、マレリは24位。両社の売上高の合計は2兆600億円となり、11位の仏ヴァレオを抜き、同10位の中国・華域汽車系統に迫る。
自動運転など次世代車の開発競争が激しくなるなか、自動車部品業界ではM&Aが相次いでいる。独ZFが15年、米自動車部品大手のTRWオートモーティブを買収して先鞭をつけた。16年には カナダのマグナ・インターナショナルが車載通信システムの独テレモーティブなどを買収した。17年、独コンチネンタルがシンガポールの車載通信会社、クアンタム・イノベンションズなど2社を買収。18年、独ボッシュが相乗りサービスを手掛ける米国のスタートアップ企業、スプリッティング・フェアズを買収し、ライドシェア事業に参入した。
そんななか、KKRは自動車部品業界のM&Aラッシュを好機到来と捉えた。17年、日産自動車の子会社だったカルソニックを買収したのに続き、今度はカルソニックがフィアットの自動車部品部門を買収する。息もつかせぬ早業だ。KKRの「次の一手」に関心が集まっている。
KKRは17年からM&Aラッシュ
KKRは17年、過去最大級となる1兆円のアジアファンドを立ち上げた。中核と位置づける日本に3000億円程度を充てる計画だ。
KKRは17年に入って、日本市場でTOB(株式公開買い付け)を立て続けに成功させた。同年3月、カルソニックに対してTOBを実施。日産はカルソニック株の発行済み株式総数の40.68%を保有していたが全株をTOBに応じて売却した。日産は1999年から進めてきた「系列解体」の総仕上げをしたかたちだ。
最終的にKKRはカルソニックの普通株式95.21%を取得。完全子会社の手続きが完了し、カルソニックは17年5月8日付で上場廃止となった。KKRは4982億円を投下、日産は有価証券売却益1140億円を計上した。
同じく17年3月、日立グループの電動工具2位の日立工機に対するTOBを実施。日立工機株をグループで51%保有している日立製作所は、KKRが実施したTOBに応じ全株式を売却、KKRは89.79%を取得した。同年7月24日付で日立工機は上場廃止になった。日立工機への買収総額は1500億円程度とみられる。日立工機は工機ホールディングスに社名を変更した。
日立は中核事業と位置づけるIT(情報技術)分野と社会インフラに経営資源を集中するため、非中核事業の切り離しを続行中だ。
17年12月、日立グループの半導体製造装置が主力の日立国際電気に対して実施していたTOBが成立した。発行済み株式数の26%相当の応募があり、成立要件だった23.58%を上回った。「物言う株主」として知られる米ヘッジファンド、エリオット・マネジメントが日立国際株を保有していたことから、2回にわたって価格を引き上げる異例の展開となり、KKRの買収総額は2500億円規模に膨れ上がった。
TOBは日立国際の少数株主を対象にしたもので、日立国際の親会社で日立国際株を51.67%保有する日立製作所は対象外だった。
その後、日立国際の主力の半導体製造装置事業は日立国際から切り離され、KKR傘下のファンド、HKEホールディングスが吸収合併。日立国際は無線通信システムなどの映像・通信事業の企業となった。
KKRは、日産や日立の事業再編の受け皿として日本市場で存在感を高めてきた。今後、さらにM&Aを活溌化させる。
投資ファンドの出口戦略は、いったん上場廃止にした企業の再上場だ。カルソニックはマニエッティ・マレリを買収することで世界トップ10に迫る自動車部品メーカーとなり、企業価値は高まる。KKRはカルソニックの再上場で巨額なリターンを得ることができるとソロバンを弾いているようだ。思惑通り、“おいしい”果実を手にすることができるのだろうか。
(文=編集部)