フィリピンの大学の講義はハードだ。日本なら通常、1科目につき90分の講義が週1回だが、フィリピンは週2回である。もちろん学生は大変だろうが、教えるこちらは、さらに大変だ。ということで、インプットを増やすため、改めていろんな文献を読み直している。
すると、自分では理解していたつもりだったが実はよくわかっていなかった、さらには知ってはいたものの、あまり心に響いていなかったものが、急に響きだすといった、ありがたいことが起きてくる。
マーケティングのバイブル:コトラーのマーケティング・マネジメント
マーケティングの「バイブル」といえば、やはり“マーケティングの神様”とも呼べる米ノースウェスタン大学のフィリップ・コトラー教授による『Marketing Management(マーケティング・マネジメント)』だろう。1967年に初版が発行されてから、2015年には15版が出版されている。ページ数は823ページと電話帳のような分厚さである。
筆者のようなものが神様に対して非常に僭越だが、文中に出てくる事例はもう少し削ってもらってもいいのではないかと思う。その一方、確かに国境を越え、多くの人に「マーケティングとはいかなるものか」を伝える名著であると思われる。こうしたバイブルを著したコトラーとは、いかなる人物だろうか。
コトラー:みなぎるパワー、執念、若さ、サービス精神
5年ほど前だろうか。筆者は米ボストンで開催されたAMA(アメリカ・マーケティング協会)の国際会議に参加していた。そのなかのあるセッションに参加していた際、発表後の質疑応答で、細かい直近の数字やデータを基に、非常に熱心かつしつこく質問を続けるかなり高齢の研究者がいた。それがコトラーだった。実物を見たのは初めてだったため、まずミーハー気分でうれしかった。しかし、それ以上に誰もが認める偉大なる先生が80歳を超えてもなお、これほど勉強し、情熱を持って質問されていることに完全に感服してしまった。ここまでパワーのある人だからこそ、あんな電話帳のような本が書けたのだなと納得してしまった。
また、その会議で賞を取られたようで受賞記念の講演が行われ、筆者も出席した。当初は立ち見も覚悟していたが、意外と会場は空いていた。講演は大学の講義のような雰囲気であった。写真や図表などが丁寧に配置されたパワーポイントのスライドを使い、Q&A方式で話は進んでいった。時折のジョークに会場は大いに盛り上がり、非常に楽しいひと時であった。もちろん、マーケティングにかかわる話自体は大変興味深かったものの、それ以上に、根底にある受講者へのサービス精神のようなものに心を強く打たれた。『Marketing Management』が多くの人に読まれる理由のひとつには、コトラーのこうしたサービス精神から生まれる、内容のわかりやすさがあると感じた次第である。