改めて:“5層の製品レベル”を考える
今回、『Marketing Management』を読み直し、心にとまったポイントのひとつに“5層の製品レベル”がある。コトラーは製品を5層のレベルで捉えている。
まずもっとも基本的なレベルが「中核ベネフィット」であり、顧客が買っている本当のサービスやベネフィットである。たとえば、ホテルでは休憩と睡眠が該当する。
第2レベルは中核ベネフィットが転換された「基本製品」となっている。ホテルでは、ベッド、バスルーム、タオルなどが該当する。
第3レベルは顧客が購入に際して通常期待する「期待製品」である。ホテルでは、清潔なベッドや綺麗なタオルなどが該当する。
第4レベルは顧客の期待を上回る「膨張製品」である。ホテルでは、リモコン付きのテレビ、生花、迅速なチェックイン・アウト・サービスが該当する。
最後に第5レベルは、将来求められるかもしれないすべての膨張と転換を含む「潜在製品」である。ホテルでは、個別の顧客の好みに合わせたサービスの提供などが該当する。
このうち、第3のレベルまではすでに多くの企業が実践済みであり、実際の競争は第4レベル以上で起きている。また、こうしたレベルを検討するためには、ユーザーによる製品の入手、使用、修理、廃棄を含む消費システムに注意する必要があるといったことが記されている。
コカ・コーラの“5層の製品レベル”:コカ・コーラ主催のヨーヨーの大会
また、“5層の製品レベル”に関して、アメリカのあるサイトではコカ・コーラを例に挙げ、第4レベルはダイエット・コークの投入、第5レベルは大会の運営による顧客への喜びの提供などを挙げていた。そういえば、筆者が子供のころにコカ・コーラ主催のヨーヨー大会があり、当時は大いに盛り上がっていたなあと思い出した次第である。間違いなく、多くの子供の心に“コカ・コーラ”というブランド名は深く刻まれたことだろう。この場合、第5レベルはプロモーションに近いものとなっているが、こうしたことを製品の構成概念のひとつとして捉えることは、非常に重要かもしれない。
随分前になるが、トヨタ自動車の自動車開発部隊が広告も自らつくり、当時大きな話題となったことがある(残念ながら広告代理店とのコンペに敗れ、実現はしなかったと聞いている)。分業ではなく、こうした一気通貫的な取り組みは、とりわけ大組織においては重要かもしれない。もちろん、広告やプロモーションを検討するためには消費者をしっかりと理解しなければならないが、現在の情報化社会においては、開発部隊であっても比較的容易に把握することが可能ではないかといったことなど、『Marketing Management』を読み直し、大いに刺激を受けた次第である。
(文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer)