日本大学の附属病院建設をめぐって、業務を担当した理事と親交のある医療法人理事長が背任容疑で逮捕され、関連企業や学内で絶対的権力者とされる田中英壽理事長の自宅にも司直の手が入った。
今後の当局の厳しい追及に期待したいところだが、願わくは可能な限り早い段階で理事長をはじめ、すべての理事は潔く引責辞任をして、せめてもの矜恃を見せてもらいたいものだ。「悪いイメージが定着してしまう。校名を名乗るのが恥ずかしい」(日大の文系現役学生)、「スポーツの日大ではなくスキャンダルの日大だ」(60代の日大OB)との切実な声も聞く。
ただ穿った見方をすれば、乱脈極まりない内実が世間に露見するのは、組織としては、まだ救いはあるものといえる。普通に考えて今回の捜査の端緒になったのは、内部告発だろう。それが可能であるのは、内部の事情に通じ、現体制の行状に対して義憤を覚える一群の人々が存在していることになる。組織としての自浄能力は、まだ失われていないことになる。
筆者は毎年、大学を運営する学校法人の財務諸表を調べているが、痛感するのは学校法人に流れる時間の遅さである。まっとうな組織の基本になるはずの情報開示の姿勢に問題があるのだ。民間、特に上場企業では常識になっていることが、今も行き渡っていない。
平成の中頃まではひどいものだった。財務諸表どころか、在籍している学生の数さえ、外部に公表しない大学さえあった。電話やメールで「御校の基本情報を閲覧させてほしい」と連絡を入れても、「取材は一切受けていない。データは学内掲示板にあるので見てほしい」と返されたこともある。女子大であったから、仮に出向いたところで警備員に制止されて、キャンパスに入ることさえできなかっただろう。
令和の現在は、さすがにここまでひどいところはない。文部科学省からのたび重なる通達や要請もあって、すべての学校法人のホームページで財務諸表はもとより、教職員数やシラバスなど、運営する学校に関する主要なデータは閲覧することができる。
著しく簡略化された財産目録のみのケースも
だが内容を見ると、仏作って魂入れずの印象は否めない。実際に閲覧を試みてもらえば、実感していただけると思うが、お目当てのウェブページにたどり着くのに苦労をするものが少なくないのだ。なかには財務関連のデータは大学ではなく法人のホームページにのみ掲載と、意図的に目立たないところに掲載しているとしか思えないものもある。
様式も統一されていない。財務分析の肝になるのは貸借対照表であり、学校法人の場合は財産目録が、懐事情を探る重宝な目安になる。多くの学校法人は財産目録の科目別の内訳、たとえば固定資産の内容や借入先の金融機関名を明細表などで示している。なかにはグラウンドから狭小の借地まで付帯設備の面積も事細かに記している律義な法人さえある。
しかし一方で、著しく簡略化された財産目録だけを貼り付けて済ませている、多数の法人が普通に行っていることができない、昭和の時代感覚で止まっている法人も、なお残っている。4年制大学を運営している学校法人に絞って、以下に実名をあげてみよう。
・弘前学院(弘前学院大学)
・了徳寺大学(大学名・同じ)
・千葉経済学園(千葉経済大学)
・上野学園(上野学園大学・2021年より4年制の募集停止)
・都築学園(第一薬科大学・日本薬科大学など)
・都築育英学園(日本経済大学)
・都築教育学園(第一工科大学)
いずれも財産目録の明細は財務諸表のサイトには添付されておらず、小規模の大学でも30程度はある貸借対照表の科目を、その他で括る形で十数項目に省略しているところもある。たとえ眼光紙背に徹す専門家であっても、その内容を精査するのに四苦八苦するだろう。
この程度の粗笨な情報開示で、税制の優遇措置を受けながら、付随事業や収益事業への展開を認められ、定型化した書類を提出するだけで、毎年億単位の補助金が交付される特権的な立場を得ているのは、恵まれすぎというほかはない。
(文=島野清志/評論家)