瀬戸氏はかねて『プロ経営者として頼まれてここに来た。席を譲れと言われれば譲る』と公言してきた。だが、あまりにも突然の潮田氏の申し出に『約束は守るが、こんなタイミングで辞めれば混乱は見えている。上半期の業績は悪かったが10月から業績は回復しており、区切りのいいところまでやらせてほしい。今辞めるのは無責任だ』と答えた。それでも最後は『指名委員会の総意なので』と押し切られた」
ところが、実際は指名委員会の総意ではなかった。
「瀬戸氏の解任と後任の指名は、『指名委員会で全会一致で決まった』と潮田氏は主張する。同委員会は潮田氏、山梨氏、前英国経営者協会会長のバーバラ・ジャッジ氏、元警察庁長官の吉村博人氏、作家の幸田真音氏の5人がメンバーだ。複数の関係者によれば、10月26日に緊急で招集された指名委員は『瀬戸氏から辞意の申し出があった』と説明を受けたという。だが、瀬戸氏は潮田氏からの電話以前に、自ら辞意を表明したことはない」
これが事実なら、潮田氏はフェイク(嘘の)情報で、指名委員会の承認を取り付けたことになる。指名委員会は潮田氏が招いた社外取締役で構成されている。
潮田氏が“禁じ手”を使ってまで、瀬戸氏の解任を急いだ理由は何か。関係者の間では「瀬戸氏が虎の尾を踏んだ」との見方で一致する。
17年8月、瀬戸氏はビルの外壁材カーテンウォールを手掛ける伊ペルマスティリーザを中国企業に売却する方針を決めた。カーテンウォールは総ガラス張りの高層ビルなどに使われる外壁材。潮田氏にはカーテンウォール世界最大手のペルマ社を手に入れることに強いこだわりがあったといわれている。
粋人経営者、潮田洋一郎
LIXILグループは、トステム、INAX、東洋エクステリア、新日軽、サンウエーブ工業の5社が11年に統合して誕生した。潮田洋一郎氏はトステムの創業者、潮田健次郎氏の息子。健次郎氏はトーヨーサッシという小さなアルミサッシ会社を、一代で日本最大の住設機器メーカーに育てた立志伝中の人物で建材業界の「買収王」といわれた。
健次郎氏は06年、悲願だった売上高1兆円を達成。それを花道に引退した。この時、誰も予想していなかった後継人事を断行した。長男の洋一郎氏を会長に据えたのだ。親子の葛藤もあって下馬評にものぼっていなかったから、業界はあっけにとられた。
洋一郎氏は商売一筋の父親とは対極の趣味に走り、その趣味はハンパではない。歌舞伎演劇の古典、小唄・長唄・鳴り物(歌舞伎で用いられる鉦、太鼓、笛などの囃子)、茶道具、建築にわたる蘊蓄は玄人はだしと評されている。御曹司のステータスであるモータースポーツにも凝っていた。1991年から3年間、自動車レースF3000に参戦した。
洋一郎氏の趣味人ぶりに、健次郎氏はほとほと困ったようで、一時は、後継者に据えることを諦め、副社長から平取締役に降格させた。結局、血は水よりも濃いということか。健次郎氏が後継者にしたのは、やはり洋一郎氏だった。