洋一郎氏が趣味にのめり込みやすいことを熟知していた健次郎氏は、会社の定款に「住生活以外の事業は行わない」との趣旨の異例の一文を入れた。洋一郎氏は10年秋、プロ野球団・横浜ベイスターズの買収に名乗りを上げたとき、「プロ野球進出は『住生活以外に手を出すな』という先代の意向に反する」として古参幹部の猛反発を招き、断念せざるを得なかった。
伊ペルマ社はグローバルM&A路線の象徴
自分が経営者に向いていないと自覚していた潮田氏は、資本と経営を分離するため、有能な「プロ経営者」を探した。そこで目をつけたのが、米ゼネラル・エレクトリック(GE)出身の藤森氏だ。GEではアジア人として初めて同社の経営陣の一翼を担った「プロ経営者」という触れ込みだった。
11年8月1日、藤森氏は住生活グループ(現LIXILグループ)の社長兼CEOに就任。藤森氏はただちに海外企業の買収に打って出た。同年12月、伊カーテンウォール、ペルマスティリーザを608億円で買収した。ペルマ社買収は、潮田氏が社長時代に決断したものだ。
ペルマ社はLIXILのグローバルM&A路線の象徴的な案件だった。だが、瀬戸氏はペルマ社を抱え続けることは大きなリスクだと考えた。売上高は1600億円規模だが業績が振るわず赤字経営だ。そのため17年8月、中国のグランドランドホールディングス・グループへの売却を発表した。ペルマ社は米国売り上げが4割を占める。納入先にはニューヨークのワンワールドトレードセンターなど著名建造物が多い。米中貿易戦争が激しくなり、米当局が中国企業への売却に待ったをかけたことで計画は頓挫した。
その結果、LIXILの19年3月決算の中間期(18年4~9月)は赤字に転落。通期の業績見通しを下方修正した。19年3月期の連結純利益は当初予想の500億円から15億円(前期比97%減)に引き下げた。ペルマ社の売却で、今期は赤字分がなくなるとしていたが、売却の承認が得られなかったためペルマ社の赤字235億円が利益を大きく圧迫する。
これだけではない。既存事業も新築着工件数の落ち込みや海外での新商品の発売遅延が響き、純利益が当初予想より62%少ない250億円にとどまる見込みになっていた。まさに内憂外患なのである。
潮田氏は、2人のプロ経営者の仕事ぶりを見て「自分もやれる」と自信を持ったのではないかと推察される。そして瀬戸氏のクビを切り、潮田氏はCEOに復帰した。
「自分もプロ経営者」と意欲を示した潮田氏は、海外で再びM&Aに舵を切ると大見得を切った。父のような「買収王」になるつもりなのだ。市場関係者がまっ先に危惧したのは、野放図なM&Aによる財務の悪化という負の連鎖だ。そのため、LIXILグループ株式は売られた。
(文=編集部)