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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

今年、5年に一度の年金・財政検証…鍵握る6つの経済前提シナリオの確率を試算

文=小黒一正/法政大学経済学部教授
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 この説明に登場する数値は、図表1の分布にも記載があるが、補足的な説明が必要である。例えば、TFP上昇率が0.9%のケースⅢで考えてみよう。

 まず、「過去30年間(1988~2017年度)の実績の分布でみると、ケースⅢの0.9%は約 6 割(63%)がカバーされるシナリオに相当する」という意味は、図表1の分布をみるとわかりやすい。図表1は、過去30年間(1988~2017年度)におけるTFP上昇率の度数分布を表すが、この分布のうちTFP上昇率が0.9%以上になる割合は63%になっている。これが「ケースⅢの0.9%は約 6 割(63%)がカバーされるシナリオに相当する」という意味である。

 しかしながら、これはケースⅢのシナリオが63%の確率で実現することを示すものではない。今後のTFP上昇率の分布が図表1と変わらないと仮定しても、ケースⅢのシナリオは63%の確率では実現しない。理由は単純で、ケースⅢは29年度以降のTFP上昇率が必ず毎年度0.9%以上であることを想定するもので、1年でもTFP上昇率が0.9%を下回ればケースⅢの前提を満たさないためである。

 これは次のような簡単なケースで明確にわかるはずだ。1年目のTFP上昇率が0.9%以上で、2年目のTFP上昇率も0.9%以上である確率はいくつか。数学のテストで、図表1を見ながら、「63%の確率」と回答する学生がいるならば、その学生は「落第」である。各年度におけるTFP上昇率の確率変数が独立とすると、39.7%(=0.63×0.63)が正しい確率になる。

 すなわち、図表1の63%という値は、ある年度におけるTFP上昇率が0.9%以上となる確率を示すが、29年度以降のTFP上昇率が常に毎年度0.9%以上である確率を示すものではない。

 では、今後のTFP上昇率の分布が図表1と変わらず、毎年度におけるTFP上昇率の確率変数が互いに独立するとしよう。このとき、29年度以降の50年間で、各シナリオが想定するTFP上昇率の経路が実現する確率はいくらか。50年間で連続してTFP上昇率が0.9%以上を超える確率は概ねゼロ(=0.63の50乗)で厳し過ぎるため、例えば、50年間のうち35年以上にわたってTFP上昇率がケースⅢの0.9%以上となる確率を計算してみると、その確率は19.1%となる。同様に、他のケースも試算した結果が図表3の下段である。

 図表から一目瞭然であるが、ケースⅠからケースⅢのシナリオが想定するTFP上昇率の経路が実現する確率は極めて低いことから、慎重なシナリオであるケースⅣ・ケースⅤ・ケースⅥを想定するのが妥当であることが読み取れよう。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)

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小黒一正/法政大学教授

小黒一正/法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。


京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。


1997年 大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。会計検査院特別調査職。日本財政学会理事、鹿島平和研究所理事、新時代戦略研究所理事、キャノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は公共経済学。


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Twitter:@DeficitGamble

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