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中沢光昭「路地裏の経営雑学」

副業で会社を買おうとする人の9割は失敗する理由…「会社経営」への大いなる勘違い

文=中沢光昭/経営コンサルタント、会社オーナー
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 逆に、前のめり過ぎて暴走気味のメッセージを送ってくる方も多かったようです。そうした人たちに共通していたのが、「買ってやる」といういわゆる上から目線のトーンです。最初のメッセージから盛り上がっていて、「概要を見た。会社を辞めて、残りの人生を賭けたい! 買えるのであれば当初の見込み金額よりも高く支払ってもいい」という人がたくさんいました。しかし、それも実際の金額を突き付けられると尻込みし、それが至って論理的な価格設定であることを説明しても、なかなか理解されなかったそうです。

 なかには、詳細情報を送ると「自信がなくなりました」と即答してきて、延々と事業を軽く見ていたことを真摯に反省したと綴ってくる人もいたそうです。

「私は1部上場企業に勤めている」「AIの研究をしている」「トップセールスマンだ」「外資系金融で、30歳だけどお金には余裕があるのでいくらでも出します」「実業をライフワークとして持ちたい」など、最初のメッセージで宣言する人も数多くいたそうです。

 少し変わったところでは、最初のメッセージから、売却しようとしている会社が扱っている商品ジャンルがどれだけ好きかということを、青春時代の思い出からしたためた詩のようなものが送られてきたこともありました。そうしたタイプは、ビジネスモデルや損益分岐点と現状や課題、具体的な取り組みなどを説明する情報を送ると、全員が音信不通になったそうです。一人だけ、「会社員を続けているほうが楽だと改めて思いました。ありがとうございました」とお礼が送られてきたそうです。

 また「買収資金は、銀行から融資を受けます」と書いている人もたくさんいたそうです。銀行取引の経験を尋ねたところ、住宅ローンを借りようとしたときに、あっさり借りられたということが誇らしげに書かれています。「脱サラしたいから」という理由で個人が、しかも勤め先の業種と関係ない分野の会社を買いたいと金融機関に打診したところで、貸してくれるかどうかということを想像したことがないようです。自分の信用や実績は会社のそれとは分けて評価されるということに、気づいていない人が多いようです。

増えてくる関係者と、まとまらない話

 なかには実際に事業実績が少しあり、本気でお金をつぎ込むつもりできちんと交渉してくる人もいました。しかし、最初はスムーズに会話できていたものの、具体的に各種書類の締結の段階になってくると、急に煮え切らない態度になってくるのがお決まりのパターンでした。それまでは「自分がああしたい、こうしたい」という話が中心だったのに、「~と言われたので、確認させてほしい」と「関係者」からの伝聞による投げかけや確認が増えてきました。ありがちなのは、普段は個人を主なクライアントとして対応している税理士、司法書士、社労士などの士業の人たちが背後に登場してくることです。さらに厄介なのは、「こうした話に詳しい友人」が出てくると、間違いなく話がこじれていきます。

 本来はM&Aとは、ある程度はお互いの信頼関係をもって信用をベースに進めなければならず、嘘をついていたらペナルティがかけられるという意味での表明保証があります。それにもかかわらず、こうして利害が一致しない関係者が増えてくると、おおよそ話がこじれていきます。すべてにおいて相手を疑ってかかる姿勢に変わる人もいました。

 アドバイスを求められた側に悪意があるわけではありません。貢献してあげたいという純粋な気持ちがあるものの、実践経験はないために、意図せず的外れなことを伝えてしまうことがあります。「事業譲渡」や「債務免除」などの言葉も軽々しく出てきたりしますが、優秀な間接部門のスタッフがいる会社であれば別ですが、ほぼ個人で成り立つ法人においては、各種手続きや税金の計算、税務リスク回避などは経営者自身が行わなければならないという認識が欠けている人が多いです。M&Aの経験がない人は、士業の人が言うことを信じて振り回され、最後に意思決定するのは自分自身だということを理解できていないようです。

人がやっていた仕事を自分でやることの心理的な障壁

 また、実際に買収候補先の現場で働く人と接すると、1つのハードルに直面します。会社員生活においても、人が辞めたり代わりの人が入ってきたりということは経験していますが、自分がオーナーである状況ではそれがどういう意味を持つのか、どれだけの手順を踏んでいかなければならないのかは、普段はなかなか想像しません。「もしこの人が辞めたら、どうするんだろう?」「代わりに自分が脱サラして専念した場合、どんな手続きをするんだろうか?」「そもそも、人が入れ替わるその間は、どうすればいいんだ?」など、初めて具体的かつ面倒な課題となって目の前に現れてきます。

 あるいは人事や経理など管理系の仕事をしていた人にとっては、「どうやったら、客って増やせるんだろう?」と、今まで社内の営業部門に指摘していたことが急に自分の仕事となって振りかかってくると、最初の一歩すらもどうしていいのかわかりません。わかったところで、具体的に何をどうすればいいのかを考えると億劫になってきます。能力の問題ではなく、新しい仕事を覚えるためには、精神的な高まりが、歳を取れば取るほど必要になります。覚悟があったところで最初からうまく行くはずもないので、試行錯誤をする時間の確保が必要です。

 結局、早期退職しようとしていた人が、いろいろと迷った末に「やっぱり普通に会社員を続けよう」となり、副業でオーナーになろうとしていた人は「やっぱり今の仕事に集中しよう」となっていきます。

会社員は蚊帳の外で事業承継は進む

 こうして、同業や近しい事業を営んでいる会社に引き取られていきます。Aさんも売り手の会社に実情を説明し、多めの対価を払ってでも仲介会社に頼んでスムーズに取引したほうが早いという結論になりました。

 社内のポストは減り、年金は先送りされるというなかで、仕事においてどうやって少しでも充実した時間を送るかということは、多くの人にとって切実な問題です。会社員としての本業をしっかりとやって生活の保障を得ながら、副業として楽しい仕事や安定した収入を得ていくというのは、実現できれば理想的な姿でしょう。

 著者自身も会社員時代に事業投資・買収と同時並行で不動産投資を始めていましたが、諸々の条件を考えると、不動産投資のほうが会社員に向いているというのが結論です。会社員を辞めた後の食い扶持としても然りです。実際に会社員の友人にアドバイスを求められたら、そう伝えています。その理由については次回お伝えしたいと思います。
(文=中沢光昭/経営コンサルタント、会社オーナー)

中沢光昭/株式会社リヴァイタライゼーション代表

中沢光昭/株式会社リヴァイタライゼーション代表

企業再生コンサルタント兼プロ経営者。
東京大学大学院工学研究科を修了後、経営コンサルティング会社、投資ファンドで落下傘経営者としての企業再生に従事したのち、上場企業子会社代表を経て独立。雇われ経営者としてのべ15期以上全うし、業績を悪化させたのは1期のみ。
事業承継問題を抱えた事業会社を譲受け保有しつつ、企業再生とM&Aをメインとしたコンサルティングおよび課題内容・必要に応じて半常勤による直接運営・雇われ経営者も行う。シードステージのベンチャー企業への出資も行う。
株式会社リヴァイタライゼーション 代表・中沢光昭のプロフィール

Twitter:@mitsu_nakazawa

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