IQOS(アイコス)、Ploom TECH(プルーム・テック)、glo(グロー)といった「加熱式たばこ」が急速に普及している。喫煙所でも、従来の紙巻たばこ喫煙者に交じって、加熱式たばこを吸っている人を多く見かける。紙巻たばこは火災の可能性があるため、消防法上では「火気」にあたり、危険物となっている。では、燃焼を伴わない加熱式たばこは、危険物ではないのか。現在、消防庁では加熱式たばこの消防法上の位置付けについて、検討を行っている。
紙巻たばこは、「喫煙用の製造たばこ」として課税対象となっている。これは「加熱式たばこ」も同様だ。しかしながら、紙巻たばこと加熱式たばこでは、「火を使用する」「しない」という決定的な相違点がある。このため、紙巻たばこには適用されている消防法の規定が加熱式たばこに適用されるかは、不明確なままとなっている。
「消防署ごとに加熱式たばこに対する見解が異なっており、例えば消防法上の視察を行う場合に、対応が統一されていない」(消防庁関係者)
ほとんど知られていないが、紙巻たばこは喫煙時の火が点いた状態、および点火するためのライター等の喫煙具の使用が「火気」となる。このため、消防法上の「危険物施設の火気規制」に該当する。従って、危険物施設では紙巻たばこの喫煙は禁止されている。各市町村の火災予防条例でも、同様の規制を設けている。
さらに、紙巻たばこは消防法や各市町村の火災予防条例で、喫煙等を制限しないと火災が発生するおそれがある場合、消防吏員により喫煙の禁止等ができる。また、市町村長が火災の警戒上特に必要があると認めた場合に、期限を限って、一定区域内における喫煙を制限できる旨を規定している。
そこで、加熱式たばこはこれらの消防法上の規定に当てはまるのかが問題となってくる。紙巻たばこの喫煙規制は、「紙巻たばこは喫煙時の火が点いた状態およびたばこに点火するためのライター等の喫煙具の使用」と定義しているが、加熱式たばこは火気の使用を伴わず、加熱式たばこ自体に点火することもない。このため、危険物施設でも使用が可能ではないか、と解釈もできる。例えば、ガソリンスタンドでの紙巻たばこの喫煙は禁止されているが、加熱式たばこは問題ないと解釈される問題が出てくる。
互換品の安全性確認が課題
こうした状況を踏まえ消防庁は、加熱式たばこについて、前出3製品を対象に、以下の実験を実施した。
(1)寝たばこを想定した布団類の繊維に対する着火危険の比較実験
(2)ごみ箱への直接廃棄を想定した紙ごみ等に対する着火危険の比較実験
(3)消火不十分を想定した使用直後の加熱式たばこのカートリッジを投入することに対する着火危険の比較実験
この結果、3つの加熱式たばこには、紙巻たばこにはないさまざまな安全対策が施されており、燃焼を伴わないことから実験では火災は発生せず、「火災発生の危険性は極めて低いことが明らかになった」(消防庁関係者)
しかし、消防庁では加熱式たばこには製品の規格や統一的な基準は定められていないことや、今後、新製品の発売が予想されること、カートリッジ等の互換品が市場に多く出回っており、これらの安全対策の確認が取れていないことから、「加熱式たばこの使用を現時点で消防法や火災予防条例で定める喫煙規制の対象外と一律で判断することは困難」(消防庁関係者)と結論付けた。その上で、「今後、安全性を確認するための規格や基準などによって客観的な評価が行われる、喫煙規制の適用について判断することが望ましい」(同)としている。
結局、加熱式たばこの火災に対する危険性は極めて低く、安全対策が取られているものの、正規品以外の互換品の安全性確認が取れないことから、とりあえずは紙巻たばこと同様の規制を適用するという“玉虫色”の結論とした。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)