最近、自動販売機で売られているペットボトル飲料の容量が減っていることにお気づきだろうか。サントリーなどは「自販機限定」として430mlサイズを販売しており、買ってから量が少ないことに気づいた消費者からは不満の声も上がっている。
ほかにも、菓子や食品などで値段は据え置きながらサイズダウンする“実質値上げ”の動きが相次いでおり、インターネット上では「知らぬ間に食べ物が小型化している」と話題に。NHKの『クローズアップ現代+』は、この現象を「スモールチェンジ」と名付けて取り上げたこともある。
この“食品のスモール化”ともいえる動きは、なぜ起きたのか。そして、いつまで続くのか。大手総合家庭用品メーカーで長年商品開発に携わっていた、プロダクトリサーチャーの四方宏明氏に話を聞いた。
10年前から始まっていた“スモール化”
値上げするよりも容量を減らして価格を維持するという販売戦略を取る食品メーカーが増えている。問題は、そうした規格変更を消費者に気づかれないように、こっそり行うケースが多いことだ。1Lサイズに見える牛乳パックの内容量が実は900mlになっていたり、ミートソースの缶詰が295gから255gへ13%減っていたりするなど、我々が知らず知らずのうちに内容量が減っている。そんな食品のスモール化について、四方氏はこう話す。
「価格はそのままで内容量が気づかれない程度に減っていく現象は『シュリンクフレーション』と呼ばれており、その手法自体は昔から存在しました。日本で顕著になってきたのは原材料価格が高騰した2007~08年頃で、その後も一定のレベルで現在まで続いています」(四方氏)
原料費高騰により原価が上がったが、価格を維持するために容量を減らして対応する。このシュリンクフレーションは、日本に限らず世界的に起きている現象だという。
「日本はほとんどが食品ですが、海外ではトイレットペーパーや歯磨き粉などの日用品でも行われています。スモール化は、大きな設備投資をしなくても容量調節が比較的容易にできる商品に起こりやすいんです」(同)
最終的には値上げせざるを得ない?
なぜ今、スモール化が世界的な動きになっているのか。その理由を四方氏はこう語る。
「国によって経済状況はさまざまですが、原材料価格の高騰を商品価格に転嫁する、つまり値上げをするのが難しいのはどの市場も同じです。たとえば、経済成長が続き賃金が上昇する環境であれば、値上げという選択肢が比較的容易ですが、それでも容量を減らしたほうがイメージが良い。消費者は量よりも価格の変化に敏感に反応します。いつも買っているチーズの価格は覚えていても、量まで覚えている人は限られます。その顧客心理を考慮して、値上げよりもスモール化という選択肢が取られやすいのです」(同)
消費者の反発を招くことが必至の値上げより、普段は意識しにくい量で調節する。それが得策だと、企業側は考えているようだ。しかし、それにも限界があり、最終的には値上げに踏み切るしかないという。
「原材料価格や人件費などを含めたコストが高騰すれば、スモール化だけでは限界があり、最終的には値上げせざるを得ないと考えられます。商品価格はさまざまな問題が複雑にからみ合って以前よりも変動性が増しているので、企業にとってはより柔軟に対応することが死活問題となるでしょう」(同)
メーカーにもメリットがある“ラージ化”
こうした状況のなか、一部の消費者はスモール化を歓迎しているという。確かに、単身世帯が増えたことで無駄に大きなサイズの食品購入を避ける人も少なくなく、持ち歩き需要にこたえるかたちで価格を下げた小型版の菓子や飲料も目立つ。
18年1月放送の『クローズアップ現代+』では、「単身・2人世帯が増えてきたため、食べ切りサイズに変えた。その分価格も下げた」という食品メーカーの回答を紹介し、スモール化は時代の要請という見解も紹介している。
容量を減らすことで個食化に対応し、世界的な問題になっているフードロスも防ぐことができるという理屈だろう。ただ、これについて四方氏は懐疑的な見方を示す。
「『気づかれない程度に内容量が減る』というスモール化がフードロスを防ぐことになるとは考えづらい。個食化やフードロス対策を目的とするのであれば、『気づかれる程度の最適な内容量に変えた』というスモール化を行うべきではないでしょうか」(同)
また、スモール化が取り沙汰されている一方で、ペットボトル飲料などの容量が増える「ラージ化」も起きている。
「スモール化と違って、ラージ化の場合はメーカーが増量したことをアピールします。洗剤や飲料などで増量したりビッグサイズの商品を出したりすることは、購入当たりの単価を上げ、同一商品を長く使ってもらえるという効果を生みます。また、容量当たりの価格を下げやすくバリュー訴求がしやすい。それも、メーカーがこぞってラージ化を行う理由です」(同)
スモール化の一方でラージ化が起きるという現象を、消費者はどう受け入れるべきなのか。
「ラージ化は消費者にもメリットがあるので、続いても良いと思います。また、スモール化もそれ自体が“悪”であるとは考えていません。ただ、消費者に誤解を招くようなコミュニケーションは避けるべきで、メーカーは『商品価値を守り、顧客に正しく伝える』という原則を忘れてはならないと考えます」(同)
食品のスモール化の裏には、そうせざるを得ないメーカー側の苦しい事情と時代背景があることだけは確かなようだ。
(文=沼澤典史/清談社)